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「紅龍皇帝の加護が……、弱まってる……?」
無意識に漏れた自分の言葉に悪寒が走った。
おかしいと思うことは何度かあった。
昼間の噴水の濁り、聖騎士コンビが出張する原因になったフナツ村の魔犬の発生……、この時期に、魔獣が大量発生することなんて今までなかったのに……。
「……ィル……、おね……ちゃ……、ご……めん……ね……」
背中から聞こえた小さな声に弾かれたように振り返った。
「シャーリー!? 苦しいの!?」
宿泊棟に駆け込むと、黒い霧が立ち込めるエントランスが出迎えた。
「<最大出力>!」
叩くようにして壁のタリスマンを発動させながら一番近くの部屋に飛び込んだ。
乱暴にドアを閉め、シャーリーを奥のベッドに下す。
「シャーリー! しっかり……」
「ごめ……んね……、サラ……、ご……めんなさ……い」
「しっかりして! 謝ることなんてないから!」
茶の瞳に涙が溢れた。
「わたし……が……、お外……出……ちゃった……から、サラ……、がっ」
目蓋が下りた。
一筋の涙がこめかみを滑り落ちていく。
「シャーリー……?」
まだ温かい首筋に触れた手に脈は伝わらず、口元に触れた掌に呼気は感じない。
「そん……な……っ」
全身から力が抜けて、床にへたり込んだ。
だらりと垂れ下がった小さな右手に結んだ黒い石と銀の指輪がタリスマンの光を弾くのを呆然と眺める。
――シャーリーまで……
部屋の窓と背後のドアが音を立てて揺れた。
魔獣の赤い眼がいくつもこちらを覗き込み、ドアの向こうではキイキイと甲高い鳴き声と硬いものを削るような音が聞こえてくる。
人の匂いに魔獣が集まってきている――、
早く立ち上らないと――、
頭の冷静な部分が警告を発したが、体が重たくて、メイスを持ち上げる気力も湧いてこない。
硬い木が砕ける音がした。
振り向いた視界に赤い目を光らせたネズミの群れが雪崩れ込んでくるのが見えた。
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