第四章 審判者 3

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第四章 審判者 3

 壁に肉片が散った。  突き出されたメイスが骨を砕き、マラットの顔面にのめり込んでいた。 「……アンタ達なんかに……、殺されてあげるわけないでしょ……ッ」  立ち上がりながら振るったメイスから巨大ネズミの死体が床にべシャリと音を立てて落ちた。無残な仲間の亡骸に一斉に攻撃体制を取る二十を超えるマラットの群れに、少女は挑戦的に笑った。 「いいわ……。かかってきなさいよ……、ぶっ飛ばしてあげる……」  正面だけでなく左右から飛び掛かってくる魔獣を睨み、リィルはメイスを振るった。 「<水圧柱(アクア・フォール)>!」  メイスの先端でタリスマンが輝き、その軌道に沿うように床から紅い水柱が吹き上げる。  巨大なネズミ達を呑み込んだ紅い水柱は魔獣の血で赤を濃くしながら、勢い良く天井まで突き上げた。  天井から圧死したマラットの死骸がバラバラになって降ってくる間にも、メイスを振り下ろし続けた。 「<水圧柱>……! <水圧柱>!!」」  何かが壊れたように呪文を放ち、水注を逃れたマラットをメイスで容赦なく叩きのめす。  瞬くうちに、室内は黒い魔ネズミの死骸と血、骸から吹きあがる瘴気に埋め尽くされた。 (なんで……っ、どうして……っ)  こんな時に限って、聖騎士コンビがいないのだろう?  副神官長がいないのだろう?  紅龍皇帝の加護が弱まってしまったのだろう?  いくつもの疑問が過ったが、そのどれもに答えはない。 「どうして……っ」  唇を噛みしめた。  戦闘槌のように振ったメイスが飛びかかってきたマラットの頭を頭蓋骨ごと砕く。  ――加護が弱まっていることに気づけなかったのだろう!?  その兆しはいくつもあった。  どこかで薄々感じていた。  だけど――、本当は気づくのが怖かっただけかもしれなくて――! 「このまま……、精霊王の加護がなくなっちゃったら……、パンタシア(あたしたち)は……、どうなっちゃうのよ……っ」  思わず漏れた声は掠れていた。  精霊族の七割近くは一般精霊族だ。瘴気に耐性があるといっても、人間とそれほど違いがあるわけではない。  そして、パンタシアの人類の八割は人間だ。  精霊王の加護を失えば、パンタシアの人類はほとんどが死に絶えてしまうのでは?  パンタシアは瘴気と魔獣が支配する地獄に変わってしまうのではないだろうか?
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