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背後の窓でガラスが砕ける音がした。
飛び込んでくる羽音に、頭上に視線を走らせる。
(魔鳥……!)
目を赤く光らせ、不気味な声を上げながら舞い込んできた黒い怪鳥はメイスをかわし、天井を飛び回った。視界の端では壊れたドアから新たなマラットが入り込んできている。
(この数じゃ、魔法で一網打尽にするしかなさそうね……)
後ろからの奇声に呪文を中断する。
数体のデビックがベッドに止まり、シャーリーに嘴を向けている。
「だ、ダメ! 離れなさい! 離れろっっっ!」
怒りに任せて振るったメイスがデビックに命中し、首の長い鳥を壁に叩きつける。
真後ろで羽音がした。
眼前に迫った怪鳥が牙の生えた嘴を大きく開けた。
「あ…………」
呼気が漏れ、頭が一瞬真っ白になる。
立ち尽くしたリィルの頭に嘴が食い込む寸前、暗い世界が蒼に染まった。
呆然とするリィルの目の前で、鳥が蒼い炎に包まれて消滅してゆく。
「蒼い……炎……? まさか……、聖炎……?」
聖炎と呼ばれる蒼い炎は蒼月王の象徴だ。
だが、聖炎を操ることができる精霊族は存在せず、精霊の寵児でさえ聖炎を操れた人物は存在しない。
「探したよ、リィル。宿泊棟にいたんだね……」
部屋全体を覆った蒼い炎の中を平然と歩いてきた旅装束の少年は、怖いくらい普通に笑った。
「イグ…………」
無事でいてくれて嬉しいはずなのに、半歩後ずさった。本能的な恐怖だったかもしれない。
彼は炎に包まれて動きを止めている魔獣達に場違いなほど穏やかに微笑んだ。
「お休み、罪なき子達……」
炎が揺らめき、宙を漂う瘴気に燃え移った。
瞬くうちに蒼く燃え上がった世界の中で、魔獣が跡形もなく燃え尽きて消えていく。
(ウソ……、いったい、どうやって……?)
イグは印を切っていなければ、呪文も唱えていない。手にも何も持っていない。
ただ、言葉を発しただけだ。
それだけで、魔獣だけでなく瘴気までもを一掃してしまったのだ。
静けさを取り戻した室内で、彼はにっこりと笑った。
「災難だったね、リィル。怪我はない?」
「あ、あたしは平気! それより、シャーリーが……!」
彼はベッドに視線を移し、軽く息を吐いた。
「可哀そうだけど、手遅れだよ。向こうの建物に、神官長さん達がいたけれど……、居住棟って言ってたっけ?」
「叔母様が!? それで、叔母様は!? 無事なの……!?」
彼は静かに首を横に振った。
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