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「マラットが大量発生しててね……。紅龍皇帝の戦闘力を受け継いでいない人には厳しかったみたいだね。他の職員さん達は瘴気にやられたみたいだ。魔の霧がこんなに立ち込めてたんじゃ、しょうがないんじゃないかな」
淡々と話す彼の表情にも声にも、感情は全くこもっていない。まるで、錬金実験の分析結果を話しているようだ。
「…………どうして?」
「なにが?」
「どうして、そんなに何ともない顔してるの!? 図書室で、言ってくれたじゃない……! 『フルスはいい人達ばかり』って……! 夕ご飯の時も、あんなに楽しそうだったじゃない! その人達が……、死んじゃったのよ!? 何とも思わないわけ!?」
言い過ぎたと思った。
今夜の行き場のない怒りを彼にぶつけるのはお門違いもいいところだ。
だけど、どうしても止まらなかった。
「……この程度で取り乱すようじゃ、巡礼士はやめたほうがいいよ。魔の霧は世界中で毎日のように発生してるんだ。旅に出たら、もっと酷いモノを見るかもしれない」
気分を悪くした様子もない、どこまでも冷静な口調だった。反省していた気持ちも吹き飛んで、頭がカッと熱くなった。
「なによ……、それ……! 大事な人達が! 家族が、魔の霧に殺されたのよ!? 取り乱して何が悪いの!? どこが『この程度』なのよ!? 貴方だって……、」
心の奥深くで、誰かが止めたような気がした。だけど、感情の激流の中に消えて行った。
「大事な人とか、家族とか……、いるんでしょ!? その人達が同じ目に遭っても、そんな風に言えるわけ!?」
沈黙が落ちた。
感情を鎮めるように瞼を閉じた後、彼は悲しそうに笑った。
「……『仲間』なら、いたよ。皆、もうずっと昔にいなくなっちゃったけどね……。『大事な人の死』を見すぎたせいかな……、あれから、誰かの死を見ても、何にも感じないんだ……。気を悪くしたなら、謝るよ」
とんでもない失言をしてしまったのだと気づく。いくら知らなかったとしても、心に余裕がなかったとしても、言ってはいけない事だった。
「あ……」
謝ろうと口を開いた時、小さな光の蛍が視界を横ぎって舞った。
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