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「荒んでるなあ、リィル。君らしくないよ」
彼は微笑んだ。
慈悲すら感じるその表情に、蒼月王を称する「慈悲深き聖炎の王」の一節が浮かんだ。
「実はね、もうとっくに答えは出てたんだ……。君が『幸せ』で、このフルスに紅龍の釣り鐘草が芽吹いた……、それが答えだよ」
「なによ、それ……、どういうこと……?」
「精霊王の釣り鐘草は、純粋な願いや思いにしか応えないんだ。リタさんとイルクさんだっけ? 種が芽吹いたまま生き続けているのは、彼らの願いに嘘偽りがない証拠だよ……。他の人達も……、この聖殿の、誰か一人でも利己的な感情に支配されているなら、釣り鐘草はすぐに枯れてしまってた……」
イグはふわりと肩の火蜥蜴に触れた。
「久しぶりに、人類に希望が見えたよ……。吹けば飛んでしまいそうな小さな灯だけどね……」
少年の髪と瞳が蒼く燃え上がり、灰色の世界を染めた。
渦巻く魔力の余波に、思わず腕で顔を守る。
(なんて魔力なの……! さっきの蒼い炎も……、こんなの、精霊の寵児とか、そういう次元じゃなくて……)
――精霊そのもの……
巡れ、無限の理
時と空の円環よ、交わりの眼より夢幻を解き放て……
唄うような、静かな詠唱に蒼く染まった世界に巨大な黒い稲妻が走り、風車のような羽に変わった。
闇色の羽がゆっくりと回転するごとに天地がかき回され、巨大な蒼と黒の渦が生じていく。
「僕にできるのはこれくらいだ。もうわかってるだろうけれど、今夜の悲劇はささやかなミスの積み重ね……、人の力で十分防げる……」
闇が広がった。
黒く染まった世界の中で、地面が流れるように少年が遠ざかっていく。
「待っ……」
声を上げた時には、闇の中に独りで立っていた。蒼い髪の少年も彼の蒼い炎も、どこにもない。
幾億の幻想よ、我が名の下に悪夢を閉ざせ……
唄うような声が、鼓膜を揺らした。
『じゃあね、リィル。君と、フルス聖殿の人々に、僕から祝福を……』
声を最後に、意識が薄れていった。
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