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(昨日の魔の霧が丸ごと悪夢になったんなら……、今日は二十八日のはずよ……!? どうして、二十七日なの!? これじゃ、まるで……)
入ってこようとした人物とぶつかりそうになって、戦闘さながらの動きで横にかわす。
「まあ、リィル……。どうしたの、そんなに慌てて……。こんな場所で走っては危ないわ」
「叔母様……っ」
目を丸くしている叔母に、メイスを手に部屋を出て行った姿が重なった。
もう二度と会えないのだと絶望した気持ちが蘇ってきて、気づけばしがみついていた。
「叔母様……っ、よかった……、本当に……っ」
「あらあら、どうしたの? 今日は随分と甘えん坊さんね」
抱き締め返してくれた腕は温かくて、胸からは鼓動が聞こえた。
――生きてる……!
当たり前のはずのことが、こんなに幸せに思える。
この「当たり前」が存在していること自体が奇跡なのかもしれないのに、考えたこともなかった。
「怖い夢を見たの……、魔の霧が……、フルスを呑み込んじゃう夢……っ」
「そう……」
叔母は迷うように黙り込んだ。
「……今日は聖騎士の二人も、副神官長もいないことだし、私達がフルスを守らなくちゃね……。何か妙なことがあったら、すぐに教えてちょうだいね?」
「うん……っ」
頷き、しがみつく腕に力を込めた。
「うぐっ!?」
妙な声が頭上で聞こえた。
顔を上げると、ベリアが凄まじい顔で固まっていた。
「叔母様?」
「リィル……、す、少しだけ緩めて……、背骨が、悲鳴を……っ」
青ざめていく叔母に、慌てて腕を放した。
「ご、ごめんなさい……! つ、つい……っ」
「だ、大丈夫よ……、私だって、紅龍皇帝のご加護を受けた精霊族ですもの……」
床にへたり込んで背中をさすりながら、ベリアは目を細めた。
「ふ、ふふ……、この痛み……、懐かしいわ……。姉さんを上回るパワーだったわよ、リィル……。姉さんは、神学校時代、現役の紅龍騎士団長をも腕相撲で瞬殺した、赤龍皇帝領にこの人ありとまで謳われた、超怪力女子だったの……」
「えええええええええっ!? なに、その笑えない武勇伝!? 勝っても全然嬉しくないんだけど……!!」
よく晴れた空に、リィルの悲痛な絶叫が吸い込まれていった。
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