第五章 そして、午後四時 1

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(昨日の魔の霧が丸ごと悪夢になったんなら……、今日は二十八日のはずよ……!? どうして、二十七日なの!? これじゃ、まるで……)  入ってこようとした人物とぶつかりそうになって、戦闘さながらの動きで横にかわす。 「まあ、リィル……。どうしたの、そんなに慌てて……。こんな場所で走っては危ないわ」 「叔母様……っ」  目を丸くしている叔母に、メイスを手に部屋を出て行った姿が重なった。  もう二度と会えないのだと絶望した気持ちが蘇ってきて、気づけばしがみついていた。 「叔母様……っ、よかった……、本当に……っ」 「あらあら、どうしたの? 今日は随分と甘えん坊さんね」  抱き締め返してくれた腕は温かくて、胸からは鼓動が聞こえた。  ――生きてる……!  当たり前のはずのことが、こんなに幸せに思える。  この「当たり前」が存在していること自体が奇跡なのかもしれないのに、考えたこともなかった。 「怖い夢を見たの……、魔の霧が……、フルスを呑み込んじゃう夢……っ」 「そう……」  叔母は迷うように黙り込んだ。 「……今日は聖騎士の二人も、副神官長(アルゲオ)もいないことだし、私達がフルスを守らなくちゃね……。何か妙なことがあったら、すぐに教えてちょうだいね?」 「うん……っ」  頷き、しがみつく腕に力を込めた。 「うぐっ!?」  妙な声が頭上で聞こえた。  顔を上げると、ベリアが凄まじい顔で固まっていた。 「叔母様?」 「リィル……、す、少しだけ緩めて……、背骨が、悲鳴を……っ」  青ざめていく叔母に、慌てて腕を放した。 「ご、ごめんなさい……! つ、つい……っ」 「だ、大丈夫よ……、私だって、紅龍皇帝のご加護を受けた精霊族ですもの……」  床にへたり込んで背中をさすりながら、ベリアは目を細めた。 「ふ、ふふ……、この痛み……、懐かしいわ……。姉さんを上回るパワーだったわよ、リィル……。姉さんは、神学校時代、現役の紅龍騎士団長をも腕相撲で瞬殺した、赤龍皇帝領にこの人ありとまで謳われた、超怪力女子だったの……」 「えええええええええっ!? なに、その笑えない武勇伝!? 勝っても全然嬉しくないんだけど……!!」  よく晴れた空に、リィルの悲痛な絶叫が吸い込まれていった。
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