第五章 そして、午後四時 2

1/3
前へ
/48ページ
次へ

第五章 そして、午後四時 2

(やっぱり……、濁ってる……)  背中を痛めたベリアを医務室に連れて行き、リィルは中庭の噴水を順に覗き込んでいた。  イグと話をした中央の噴水だけではなく、中庭の他の二つの噴水も同じように濁っている。敷地内の小川は噴水から湧き出した水が流れているのを考えると、瘴気を浄化する力は夕方の時点でかなり落ちていたということだ。 (この調子じゃ、他の場所の噴水もマズいかも……。こんな時に水門を開けてたら、夕べみたいなことにもなるわよね……。厳密には、「夕べ」じゃないけど……)  ベリアに「昨夜」の出来事をそれとなく聞いてみたが、返ってきたのは「二十六日の夜」の出来事だった。つまり、叔母の中では「二十七日の夜」はまだ来ていないということだ。  医務室のイルクも同じ反応だったし、鍵の保管日誌も二十七日朝の開錠の記録までしかなかった。二十七日が終わっているのならば、施錠の記録もあるはずなのに。  今が、二十七日の夕方なのは間違いなさそうだ。 (……時間が戻ったってこと……? あたしが体験した「二十七日の夜」は存在しないってことなの……?)  昨日と同じように中央の噴水の縁に腰を下ろし、空を見上げた。 「昨夜」が存在しないのなら、ペンダントは? 図書室の本は?  どこに消えたというのだろう? 「どこにいるのよ、イグ……。聞きたいことも言いたいことも、いっぱいあるのに……」  入場証を配っている正門の受付カウンターにも行ってみたが、入場証は先日のリィルの当番の日と同じ数で、帳簿にも入場者の記録はなかった。イグが乗って来たはずの最終便は既に出てしまったらしく、正門は閉ざされ、今日の受付当番のルーシェは仕事に戻ってしまっていた。 「辞典はあげられるけど、ペンダントは返ってきてほしいなあ、とか……、違うかあ」  さっきからずっとモヤモヤしている。  大聖殿への推薦を断った時と似ているかもしれない。 (……イグは幻想夜を追いかけてきたのよね? 今夜、幻想夜が起こるなら、フルスにいないといけないんじゃないの? それとも……)  幻想夜はもう来ないのだろうか?  昨夜、人知れず終わって、彼は次の発生地に向かってしまったのだろうか?  だったら、たぶん、もうフルスへは来ない……。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加