第五章 そして、午後四時 2

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「あ~~、いた! リィル姉!」  元気な声に顔を上げた。  フルスの白い制服を着た活発そうな茶髪の女の子と、少し遅れて同じ服装の赤い髪の女の子が曲がり角から姿を現した。 「サラ……、シャーリー……っ」  昨夜の真っ青な二人の顔が過り、目が熱くなった。 「リィル姉! 裏門に行ってあげて! 荷物がいっぱい届いて、ルーシェ姉が困ってる!」  リィルの様子がおかしいのに気づいたのか、サラは不思議そうな顔をした。 「リィル姉? どうしたの?」 「リィルお姉ちゃん……?」  不思議そうな顔で覗き込む二人に、込み上げてきたものが決壊した。 「ど、どうもしないわよ! よかった~~~~~!!」  思わず二人まとめてぎゅうっと抱きしめた。  ――温かい……、生きてるんだ……!  形見のペンダントは失くしてしまったけれど、二人や叔母、フルスの皆と引き換えたと思えば、惜しくなんてない。  きっと、母も父も赦してくれるはずだ。 「な、なに!? どうしたの??」 「お、お姉ちゃん……!?」 「よかったあ……! 本当に……っ」  気持ちのままに力を込めると、腕の中で悲痛な声が上がった。 「り、リィル姉……! く、苦しい……っ」 「お、お姉ちゃん……、サラの顔、真っ青……、痛……いっ」 「ご、ごめん!」  慌てて手を離すと、二人は地面にぐたっと座りこんだ。 「ぷは~~、く、苦しかったぁ~~! シャーリー、大丈夫? 骨折れてない?」 「う、うん……、リィルお姉ちゃん……、必殺技の練習はシムルさんのほうが……」 「そうだよ~~、シムルさんなら練習台になってくれるよ~~。『俺の筋肉と勝負したいのか!?』って」  ――本当に……、生きてるんだ……!  目頭が熱くなって、指で拭った。  ちなみに、シムルは人間の男性職員で、昨日はべリアの使いで朝早くから近くの村に出かけていて、夜になって戻ってきていた。 「……生きてるって……、素晴らしいわね……、本当に……っ」  感極まるリィルを、二人の少女は呆気にとられた顔で見上げた。 「今日のリィル姉……、めっちゃくちゃ変……。ベリージュースと間違えてワイン一気飲みした時みたいじゃない?」 「お舟からレプス湖に落っこちて風邪引いちゃった時も、こんなだったよ?」  好き勝手な二人の言葉も、今日は全く気にならない。生きているからこそ、こんな言葉も聞けるのだ。 「っ……どっちも、ハズレ……っ」  目元を拭い、ストンとしゃがんだ。 「それより、イグを見なかった? 蒼い髪の、ソティストの研究者の男の子なんだけど……」  二人はきょとんとした。 「誰? ソティストからお客さんが来るの?」 「リィルお姉ちゃん……、祭典は来週だよ?」 「そうだよ、リィル姉! まだ二十七日なのに、フルスにお客さんが来るわけないよお!」  ――この子達も、イグのことを知らないんだ……  ベリアとイルクにもそれとなく聞いたが、同じ反応だった。  つまり、それは――、 「ごめん、なんでもないから!」 「あ、リィル姉! 裏門でルーシェ姉が待ってるってば!!」  後ろから追いかけてきたサラの声に軽く手を挙げて応え、中庭を突っ切った。
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