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「あ~~、いた! リィル姉!」
元気な声に顔を上げた。
フルスの白い制服を着た活発そうな茶髪の女の子と、少し遅れて同じ服装の赤い髪の女の子が曲がり角から姿を現した。
「サラ……、シャーリー……っ」
昨夜の真っ青な二人の顔が過り、目が熱くなった。
「リィル姉! 裏門に行ってあげて! 荷物がいっぱい届いて、ルーシェ姉が困ってる!」
リィルの様子がおかしいのに気づいたのか、サラは不思議そうな顔をした。
「リィル姉? どうしたの?」
「リィルお姉ちゃん……?」
不思議そうな顔で覗き込む二人に、込み上げてきたものが決壊した。
「ど、どうもしないわよ! よかった~~~~~!!」
思わず二人まとめてぎゅうっと抱きしめた。
――温かい……、生きてるんだ……!
形見のペンダントは失くしてしまったけれど、二人や叔母、フルスの皆と引き換えたと思えば、惜しくなんてない。
きっと、母も父も赦してくれるはずだ。
「な、なに!? どうしたの??」
「お、お姉ちゃん……!?」
「よかったあ……! 本当に……っ」
気持ちのままに力を込めると、腕の中で悲痛な声が上がった。
「り、リィル姉……! く、苦しい……っ」
「お、お姉ちゃん……、サラの顔、真っ青……、痛……いっ」
「ご、ごめん!」
慌てて手を離すと、二人は地面にぐたっと座りこんだ。
「ぷは~~、く、苦しかったぁ~~! シャーリー、大丈夫? 骨折れてない?」
「う、うん……、リィルお姉ちゃん……、必殺技の練習はシムルさんのほうが……」
「そうだよ~~、シムルさんなら練習台になってくれるよ~~。『俺の筋肉と勝負したいのか!?』って」
――本当に……、生きてるんだ……!
目頭が熱くなって、指で拭った。
ちなみに、シムルは人間の男性職員で、昨日はべリアの使いで朝早くから近くの村に出かけていて、夜になって戻ってきていた。
「……生きてるって……、素晴らしいわね……、本当に……っ」
感極まるリィルを、二人の少女は呆気にとられた顔で見上げた。
「今日のリィル姉……、めっちゃくちゃ変……。ベリージュースと間違えてワイン一気飲みした時みたいじゃない?」
「お舟からレプス湖に落っこちて風邪引いちゃった時も、こんなだったよ?」
好き勝手な二人の言葉も、今日は全く気にならない。生きているからこそ、こんな言葉も聞けるのだ。
「っ……どっちも、ハズレ……っ」
目元を拭い、ストンとしゃがんだ。
「それより、イグを見なかった? 蒼い髪の、ソティストの研究者の男の子なんだけど……」
二人はきょとんとした。
「誰? ソティストからお客さんが来るの?」
「リィルお姉ちゃん……、祭典は来週だよ?」
「そうだよ、リィル姉! まだ二十七日なのに、フルスにお客さんが来るわけないよお!」
――この子達も、イグのことを知らないんだ……
ベリアとイルクにもそれとなく聞いたが、同じ反応だった。
つまり、それは――、
「ごめん、なんでもないから!」
「あ、リィル姉! 裏門でルーシェ姉が待ってるってば!!」
後ろから追いかけてきたサラの声に軽く手を挙げて応え、中庭を突っ切った。
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