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第一章 舞翼の奏主の月二十七日 午後四時 2
「へえ、リィルは巡礼士候補生なんだ。それなら、卒論は急がなくてもいいね」
中庭の噴水の縁に並んで腰を下ろし、イグは納得したような顔をした。
巡礼士は神学校生の進路の一つで、神官研修、高等神学校進学と並んで人気がある。
十二の大聖殿を巡り、最後に自分が魔力を授かった精霊王を祀る大聖殿に旅の成果をまとめた「卒論」を提出することで晴れて巡礼の旅が終了し、神学校も卒業となる。
巡礼はどの大聖殿から始めても良いし、ルートは自由、期限もなく何年かかっても問題ない。
ただし、基本は一人旅になる上に、昨今の物騒な情勢と相まって、旅の途中で命を落とす者も珍しくなく、予めテーマを決めて安全ルートを調べてから出発するのが普通だ。それでも、行方不明になる巡礼士は後を絶たない。
「巡礼士試験って、実技とか教養分野とか何段階か試験があるよね。どのくらいまで合格してるの?」
「実技も知識も合格してるから、後は面接だけ。面接は本当に旅に出るかどうかの最終確認みたいなものだから、落ちる人はほぼいないわ」
「じゃあ、もうほとんど合格なんだ。おめでとう。出発はいつ?」
「面接は祭典月が明けてすぐだから、普通は、再来月の火獣王の月の終わり頃に発つけど……、この調子じゃ、その次の深淵王の月の出発も怪しいかもしれなくて……」
「テーマが決まってないなら急がないほうがいいよ。精霊王祭を順に追いかけるとかなら別だけど……」
「そうなんだけど……。一年くらい探してても、『これ!』っていうテーマが見つからなくてね……」
イグは不思議そうな顔をした。
「行きたい国とか、見たい遺跡とかないの? 巡礼士目指す人って、目的があって、巡礼はついでの人が多いんでしょ?」
「……行きたい国も遺跡も、特にないから……」
巡礼士試験受験者の八割は、十二の大聖殿の支援を受けながらの世界一周の旅が目当てだ。一緒に試験を受けた受験仲間達はほとんどがそうだった。後の二割は、家の事情や出世が目当てで、そのどれでもないリィルはかなり異端といえる。
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