プロローグ:二大王家と奴隷貴族

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プロローグ:二大王家と奴隷貴族

 私が住む国ラウエルは二つの王家が国を治めている。  元々一つの血筋だったが、国が大きくなるうえで土地を分担して統治することにしたのだ。  それぞれキステ家とエルベ家である。  国の中ではキステ家とエルベ家が同率一位という扱いで、他の貴族もどちらかの派閥に分かれる。力関係がどちらかに傾くと内乱が増えて国が分断する寸前までいくこともあったが、今のところは落ち着いている。  昔は三大王家であったが、私の家であるべヴァイス家は魔法の発展に多くの費用と時間を注いだ結果、国家転覆罪を疑われ、重大な証拠があると仕立てられて滅びかけた。  べヴァイス家は滅ばずに済んだのは、二大王家専属の奴隷となったためだ。  国民や貴族、その他ほとんどの王家の人間はべヴァイス家が専属奴隷であることを知らない。  べヴァイス家は国の中では二位の扱いで、キステ家およびエルベ家のどちらの陣営でもない。専属奴隷であるため力関係がはっきりしていて、べヴァイス家の人間は呪いゆえに王家のに逆らうことができない。 『べヴァイス家はそれでも誇り高き魔法使いよ』  生前の母の言葉だ。  母は仕事を失敗してしまって消されてしまった。  有力貴族を暗殺する仕事を行っていて標的を逃したらしい。  国に邪魔な人間を殺す暗殺業もべヴァイス家では秘密裏に請け負っている。  二大王家の力関係が崩れたとき、整えてやるのもべヴァイス家の仕事だ。  奴隷であるがゆえに政治に関わることが許されないため、祭事を管理し行う巫女の役割を果たしている。 「で、私の次の任務は?」  夜。  べヴァイス家の屋敷の部屋にて。  月明かりが窓を抜けてくる。  キステ家から暗殺の仕事を受けた。  従姉兼有能メイドであるファーネは机に手紙を置くと、穏やかな表情で私の頭を撫でる。 「エルベ家の子供の暗殺です。巷では神童と呼ばれており、攻撃魔法が得意とのこと。得意の雷魔法は現地点で小国を一気に焼き滅ぼすとか。暗殺するのは非常に容易いでしょうが、死ぬ前に大魔法を放たれてしまえば被害は無視できるものではありません」 「一撃で殺せということ?」 「我々べヴァイス家はどの魔法使いよりも優れています。次期当主であるティヒラ=べヴァイス様であるならなおさら。それでは反撃の隙を与えず即死させる魔法、少なくとも一緒んで意識は刈り取る魔法は使えますか?」  私が首を左右に振る。  ファーネは依頼書が入っていた紙から短刀を取り出す 「これを使います。大人数の魔法使いが力を込めたものらしいです。力の根源を断ち切る短刀らしいです」 「よく分からないけど」 「我々人類は大小関わらず神々に力を授かって魔法を使っています」 「そうね」 「神と人の繋がりを切ることで力を使えなくします。この短刀は力の原因である神を認識することで使用することができるそうです」 「大体は分かったわ。それで、殺す必要ってある?」 「私はないと思いますね」 「気に入らないから殺すってことか。国を治める者がそんな考えでいいのかしら? 結局私は何をすればいいの?」 「はい。私は納得していませんが、」  エルベ家の神童と婚約し、力の根源を探る。  特殊な短刀で魔法を使えないようにしてエルベ家の子供を殺す。  キステ家の命令とはいえ、もう一方の王家の人間を殺すことなどあっていいのだろうか?  少なくとも私に命令が下ったということは、それを断ることはできないということだ。  命令に逆らったべヴァイス家の人間は内臓が破裂して即死である。  死ぬのを防ぐための魔法を準備しただけでも命令違反となって同じように死ぬ。  呪いがかけられている以上、やるしかない。 「現当主の、弟の子供。当主になることはないが、神童ゆえに力関係が崩壊する。防ぐのは確かにべヴァイス家の仕事になるだろうけどね」  ……婚約するということは仮にも夫婦になる約束をするということでしょ?  しかも年下の、成人前の男の子よ?  大丈夫なの? ……本当に?
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