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006:今度は子供に絡まれた!
仕事は今日から始めたいな。
現在の所持金は微々たるもので、先程の受付嬢に聞いたら小銀貨一枚と大銅貨が四枚で千四百コエというらしい。
普通の宿屋の個室が一泊千から千二百コエが相場らしいから一泊分しかないことになる。そこから食事代も足せば一泊分に少々足りない。本当に素泊まりしか出来ないことになる。それは辛いので、さっそく仕事を探す為に掲示板へ向かった。今日という日の宿と食事のために。
そこには常時依頼として公共のトイレ掃除や、どぶさらいの仕事がデカデカと張り出されていた。給金は一日仕事で百二十コエとある。きつい仕事だけど誰でも出来るから安く設定されているようだ。
私が、その二つの依頼表を見比べていると子供が「なぁなぁ」と声をかけてきた。見たところ一〇才ぐらいの少年だ。あまり興味がないので視線を元に戻した。するとそれでも少年は構わず「姉ちゃん。それ受けるのか?」とフレンドリーに話しかけてきた。なので私も軽く「迷ってる」と答える。すると少年は呆れた顔で言い放ったのだ。
「やめとけよ」
私は視線を少年に向ける。少し圧を出して。
「どうして?」
「そりゃ姉ちゃん。そんなキレイな格好で汚れる仕事をするつもりか?」
首を傾げる。キレイな格好?
私は自分の姿を見て、その後で少年の服を見る。私の服は中古の平民服だが少年からすると、まだまだキレイな部類に入るようだ。それに一つ重要なことに気がついた。着替えを持っていないのだ。
「着替えもない……」
「なら、なおさら止めとけよ。その服を汚したら宿にすら泊まれなくなるぞ」
「なるほど。ありがとう」
私は、ならばと改めて仕事探しをする。
あまり汚れず、それでいて給金の高い仕事。つまり技能系だ。文字の読み書き計算が出来るから、それらで何かないかを探してみる。すると先程の少年が、また話しかけてきた。
「姉ちゃん。文字の読み書き計算ができるのか?」
馴れ馴れしいなぁとは思ったが、先程は有用なアドバイスを貰ったので邪険にするのも申し訳ない。なのでまた正直に答える。
「そうだね。文字の読み書き計算なら結構出来る方だよ」
「ふぅん。自信があるんだ。スゲぇんだな」
「凄い、のかな?」
よく分からん。だが少年は何を思ったのかニヤリと笑った。
「いや。すげぇよ。なぁ、姉ちゃん?」
「なに?」
「俺に文字の読み書き計算を教えてくれよ」
私は少し考えて答えた。
「有料」
「だよなぁ……」
少年がガックシと項垂れた。本当にショックだったようだ。落ち込み様が酷い。私は少しだけ少年に興味を持った。なので改めて少年を観察する。服装こそ酷い状態だが利発そうではある。なので慰める意味で私は自分の今の実情を話した。
「今の私は泊まる所も無くて、食事代も数日分しか余裕がないから教えることは出来ない。このままじゃ身を売るしかなくなるし、出来ればそれは避けたいの」
すると少年が顔を上げた。
「泊まる所がないのか?」
「かろうじて今日の分ぐらいかな」
すると少年は我が意を得たりといった様子で笑顔を見せた。
「じゃあさ。俺の家に来ねぇ?」
家?
「隙間風はピュウピュウだけどさ。いちおう屋根と壁はある」
「親御さんに了承を得なくて良いの?」
「親は居ない。俺と妹だけだ」
「どうやって生活しているの?」
「俺が働いてに決まってるだろ」
そう言って少年は屈託なくニカッと笑う。そこに卑屈さは見えない。私は「良いの?」と尋ねた。すると少年。
「その代わり文字の読み書き計算を教えてくれ!」
なるほど。そう来たか。したたかな子だな。きっと今の私は呆れと感心が混じった表情をしているだろう。だが、まぁいい。そういうことなら喜んで受けようじゃないか。
「そうだな。分かった。いいよ。宿泊場所の提供と相殺だ」
こうして私は少年の家にお世話になることになったのだった。
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