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007:レダ
少年はレダと名乗った。そして少し驚いたのはその年齢だ。
「十二歳?」
体格的には十歳ぐらいにしか見えない。その姿で私と三歳差とは驚きだ。たぶん栄養状態があまり良くないせいだろう。見た感じ痩せすぎだ。
「それで? 姉ちゃんは?」
「ティナだよ。今年十五になったばかり。よろしくね」
私の顔へ向けていた視線をレダは少しずらして言った。
「へぇ。それにしてもキレイな髪だね」
あら?
意外におませさん?
「ん? あぁ、ありがとう」
「でも、仕事には邪魔かも」
違ったようだ。
「あぁ。やっぱり?」
「うん。後で切ってやろうか?」
「そんなこと出来るの?」
「妹の髪は俺が切ってるんだ」
「じゃあ、妹さんの髪を見てから決める」
「はは。ちゃっかりしてらぁ」
短い時間でだいぶ仲良くなれた。人懐っこい子だからだろう。それに屈託がなく擦れた感じがしないのも評価できる。
そんな会話を交わしながら彼らが住むという住宅エリアを目指した。途中から少しボロ屋が多くなってくる。ポツポツとだが屋台も出てるな。
「貧民街?」
「そこの入口の手前だね。ギリ庶民エリア。だから兵士もたまに巡回に来る感じ」
なるほど。まぁ贅沢は言うまい。この際、安全に寝泊まり出来れば何処でも良いのだ。ついでに食事も出来れば言うことなしだ。
「そうだ。途中で何か食い物を買わなきゃいけないんだった」
ふむ?
「この辺の屋台では何が買えるの?」
「肉屋に野菜屋。雑貨屋もある」
「今日は私に出させてもらえる? 宿泊代も兼ねて」
「いいの!」
「まぁ大して持ってないけどね」
「だよね。知ってた」
「生意気な。まぁいいや。で、オススメは?」
「う~ん。特にはないよ。とりあえず大麦は欲しいかな。塩も、もうちょっとしかないから欲しい」
「分かった。肉と野菜は?」
「高いよ?」
私は現在の手持ちのお金をレダに見せた。
「これで買える?」
「う~ん。まぁ買う物によるけど五日分ぐらいにはなるかな。って姉ちゃん。物の値段が分かんねぇの?」
「うん。残念ながらね。計算はできるんだけど」
「意味が分かんねぇ」
しょうがないじゃん。こっちの世界で買い物はしたことないんだからさ。
「まぁその辺のことは、これから勉強していくから色々教えてね?」
「おう! まかせろ!」
「その代わり文字の読み書き計算の仕方は教えるからさ」
「うん! あっ妹にも教えて欲しいんだけど良い?」
「ついでだから、いいよ」
庶民としての生活や冒険者としてのノウハウを教えてもらう代わりだ。経済的にも知識的にも逼迫している状況で、この出会い当たりだなと感じた。共存共栄。これ大事。
※
※
※
買い物をしてレダの家に到着した。空は相変わらず暑い灰色の雲に覆われているが、それでもそろそろ日が沈む時間帯なのだろう。暗くなってきた。そこかしこの家からは明かりが漏れ始めている。レダの住む家は城壁の近くにあった。ちょうど太陽の光が陰る場所だ。
「到着ぅ~」
そう言ってドアをリズミカルにノック。トトントントンと言う感じだ。符丁かな?
するとガチャガチャという鍵の音がしてドアがちょっとだけ開いた。
「お兄ちゃん?」
「おう。ミア。帰ったぞぉ」
するとドアが一度閉じられた。内鍵を開けるためだろう。再びガチャガチャと言う音。そして再び開いた。今度は大きく。しかし、すぐに私の存在に気がついて驚いた表情をした。
「誰!?」
ミアと呼ばれた少女がドアにしがみ付きドアを閉めようとする。おぉ警戒心!
するとレダが「大丈夫だ。ミア。このお姉ちゃんは良い人だから」と言った。
私は私が良い人かどうかは分からない。
でも少なくても少年や少女を害すタイプの人間ではない。なので身を屈めて少女に言った。
「驚かせてゴメンね。私はティナ。しばらくこの家で厄介になることになったんだ。よろしく」
妹が兄を見ている。疑念と困惑の眼差し。そんなミアにレダが言った。
「まぁ、そういうことだ。詳しくは中で話す。とりあえず入れてくれ」
するとミアは溜め息を吐いて不承不承という感じで頷き、恐る恐る私を中へと招き入れてくれたのだった。
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