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008:ミア
家の中へと入った。なるほど。たしかに隙間風がピュウピュウだ。
入ってすぐの所に、かまどが有り現在そこには火が入っている。どうやら夕食を作っていたようだ。私は途中で購入してきた大麦と豆。少量の肉と野菜。塩とハーブをミアちゃんに渡した。
「これ……使って欲しいんだけど良いかな?」
するとミアちゃんは「良いの?」と言って兄であるレダを見た。レダが「おう!」と笑顔で頷くとミアちゃんは、さっそくとばかりに野菜と肉を切り分け、塩とハーブを少しだけ振り掛けた。下味をつけている間に大麦と豆を、作っていたスープに入れ始める。
これは少し贅沢はオートミールと豆のスープになりそうだな。
調理の合間にミアちゃんから質問が来た。先程よりは警戒心が薄れているようだ。
「それで? お兄ちゃん。このお姉ちゃんは誰?」
レダが私の紹介をしてくれた。
「名前はティナさん。俺たちに文字の読み書きと計算を教えてくれる人だ」
するとミアちゃんが疑わしそう目で私を見た。
「何でそんな教養のある人が私達みたいな貧乏な家に?」
私はどうしたものかと困ってしまう。だが迷ったのは少しの間だけ。二人に事情を話すことにした。黙っていては疑念が晴れないからだ。
「私ね。ついさっきまで貴族だったの。でも問題を起こして貴族籍を剥奪させられて家を追い出されたのよ」
レダにも話していなかった内容だ。なので彼も驚いている。ミアちゃんも驚いていたがすぐに立ち直ったようだ。更に突っ込んだ質問をしてきた。
「問題を起こしたって何をしたんですか?」
「婚約者を殴った」
「どうしてですか?」
「他の女の子に悪い事をしようとしてたから。それ以外いにも色々と気持ち悪かったし」
するとミアちゃんは不思議そうな顔をしながら、それでいて私の真実を知ろうと、まっすぐな視線を向けてきた。その目には嘘は許さないと書いてある。
「それって悪いことなんですか? 良いことしたんじゃないんですか?」
ふむ。賢いな。私は正直に打ち明ける。下手な誤魔化しはしないことにした。ここで追い出されては堪らないからね。
「殴った相手が私の家より家格が上だったのよ。それに被害者の少女が醜聞を嫌って名乗り出なかった。そうなると証言者は被害者だけだから有罪確定で家を追放になったの。言っていることは分かる?」
するとミアが少し考え込んで言った。
「うぅんっと。相手の方が偉かったから間違いも間違いじゃないってことになった?」
「まぁそんなところね」
「貴族様らしい……って言ったら怒りますか?」
「全然。理不尽な事なんて珍しくもないからね」
私の言葉の意味がどれだけ伝わったかは分からないが、それでも私に落ち度がなかったことは認めてくれたようだ。ミアちゃんは溜め息を吐いた後で言った。
「分かりました。ティナお姉ちゃん。これから、よろしくお願いします」
どうやら面接をクリアしたようだ。ふぅっと一息ついた。それにしても、と。私はレダを見る。
「お兄ちゃんより、しっかりしてない?」
するとレダは頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「まぁ、そうかもな。でなきゃ生きていけないから」
なるほど。生きていくために逞しく。そしてしたたかになったと。そしてしっかりと考える。子供が子供のままではいられないのが、この世界の庶民か。
「大変だな」
私は台所に立って料理をするミアを見て思ったのだった。
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