009:散髪と雑談

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009:散髪と雑談

 さて、と。ミアの手料理を食べた後は、寝るまで軽く雑談タイムだ。日が落ちたばかりの時間帯で本来なら油を節約するために寝る時間帯なのだが、まだお互いが知り合ったばかり。 なので人となりを知る意味でも大事で必要な時間だと判断した。 「そういえば、髪を切るって話をしたな」  私はレダの話を思い出しミアの髪を見る。彼女の髪は、いわゆるボブカットで良く整えられていた。レダが私の視線の意味に気が付き「どうする?」と尋ねてきた。 「お願い」  私は切ってもらうことにしたのだが、ミアが気が付き反対の声を上げる。 「えー。せっかくキレイな髪なのにぃ。もったいないよぉ」  それはそうかも。とはいえだ。今の腰まである髪は今後の仕事に邪魔だし、このキレイさは維持できない。なのでミアの意見は軽く流して私はレダにお願いした。 「バッサリとやっちゃって」  レダがどの辺で切るかの確認をしてきたので、私は少し迷って肩ぐらいで切ってと頼んだ。レダがナイフを取り出しながら「この切った髪は売っていい?」と尋ねてきた。 「売れるの?」 「あぁ。かつら用になるんだ。珍しいしキレイだから、それなりに良い値がつけられるはずだよ」 「へぇ。分かった。売っていいよ」  それで腹が膨れるというのなら喜んで売ろうじゃないか。  髪は一回キツく三つ編みにして、まとめてから肩の位置でナイフが入れられた。あまり切れ味のいい刃物じゃないので切るのに四苦八苦しているようだ。プチプチブツブツという音が聞こえる。同時に頭皮が引っ張られて痛い。  いだだだだ……  ミアも「あぁ」とか「うぅ」とか「もったいないぃ」とか言って呻いている。私も少し泣きたい気分になった。でもしょうがないのだ。生活のため。仕事のため。  大きく横に切り終わったら整えるための時間だ。今度は髪の流れに沿って縦にナイフが梳くように入れられていく。鏡なんて上等な物はないので自分の髪型がどうなっているのか分からないが、だいぶ頭が軽くなったのは事実。  切り終わった後でミアに確認してもらう。 「どう? 変じゃない?」 「うん。大丈夫」  よし。オッケーを貰ったので、そろそろ寝ようか。火の元のランプと、かまどの火を落としたら部屋は真っ暗だ。ベッドは木箱に藁が敷き詰められただけの簡易な物。 「寒いね」  私は二人にそう感想を述べた。暗いから二人の表情のほどは分からない。レダが答える。 「これでも、だいぶマシな方だぞ?」  ミアが「うん」と頷いた。  さっきまで火があったからな。  被り物は薄い布が一枚だけ。氷が溶けだした季節と呼ばれ、ようやっと厳しい冬を終えて春へと移ろう季節の直前でこの気温。本格的な冬だとどうだったんだろうね。ちょっと想像ができない。  私は次の冬に備えた提案をする。 「次の冬までには、せめてもう少し暖かな物を買いたいな」  するとレダが「そうだなぁ」と頷いた。 「皆で一緒に寝れば寒くないよ?」  ミアの可愛い提案。確かに、そうなんだけどね。  私たちは現在、二つのベッドで寝ている。私がミアのベッドを独り占めしている状態だ。  そんなミアの言葉にレダが反対した。 「三人で一つのベッドは狭すぎる」  私も反対だ。 「さすがに成人間近のレダと同衾は……」  まぁ凍死するかしないかという状況で、そんな事は気にしてられないだろうが。避けられる事態なら避けたい。それはレダも一緒だったようで。 「買おうな。うん。買おう。頑張ろう」という返事があった。他にもやりたいことがある。 「身体も洗いたいな」  せめて濡れタオルで拭きたい。レダにそう話を振ってみた。 「う~ん。まぁそうだな。じゃあ明日は用意するか」 「うん。ゴメンね。ありがとう」 「ついでだからミアも綺麗にしような」  ミアが「うん」と頷く。素直だな。まぁ女の子だもんね。綺麗にしたいよね。そんな他人事なレダにも提案だ。 「レダも身綺麗にしたほうがいいよ?」 「えぇ。俺はいいよ」 「綺麗にしたほうが女の子にモテるよ?」 「……い、いや。いいから。別にモテなくてもいいから」 「そう? でもついでだし、ね?」  すると「……そ、そうだな。ついでだしな」と案を飲んでくれた。これで皆、臭くなくなるな!  そんな会話をしている私たちをミアがクスクスと笑う。とりあえず明日は歯ブラシやタオルを買おうと心に誓ったのだった。  さて。寝るかな。
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