わたしがわたしに還るまで

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 「ただいま」も「おはよう」もいう相手がいない。  恋人がいたりしたら、スマホで文字を打ち込んで交わす言葉の一つや二つもあるだろうが、ここ五年ほど、そんな決まった相手がいない。  一番最後に付き合っていた恋人は、毎日のように朝晩ほとんど決まり文句だけのメッセージを交わすのが、だんだんと業務連絡のようになっていった。  日曜日に会って一緒に食べるランチも、いつしか義務感が先立つようになった。  そんなふうに倦怠期に入り、煩わしくなってきていた矢先、彼は新しい相手が見つかったといって、あっさりと去っていった。  いつのまにか他の誰かに心変わりされていたことが悔しくはあったが、あえて告白するなら正直、寂しさよりも安堵する気持ちの方が強かった。  形だけの愛なんて、いらないのだ。  そのときわたしはそう強く思った。  世の中結婚しない人が年々増えているというが、周りにいるのはほとんどが既婚者である。  それで、四十歳になった自分が職場ひいては社会で浮いているような気がしてしまう。  そんな闇スポットにはまりこんだ自分は、それほどまでに他者を寄せ付けない偏屈な人間なのか、ちょっと考えこんだりすることがある。
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