わたしがわたしに還るまで

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 こうしている今も、自分は試されているのだと強く感じる。  本当にこれでよかったのか、と。  人生という流れ星が消えてなくなるまでに、最善の選択ができる自信があるとはいえない。  わたしは、普通ではない自分を楽しんでいたころを思い出そうとした。  友人に囲まれ、恋人もいたが、皆いなくなった今、同じことで笑うことができるだろうか。そう自問した。  三十歳を過ぎるまで、わたしは好きに絵を描き、誘われたらマイク握ってバンドで歌っていた。  知らず知らず若さが自分の売りになっていたことに気づく。  老いを楽しむほど、今の自分にゆとりがないからだ。  覚悟を決めたら、楽しくなるのだろうか。    それにしても、あのころに比べたら、欲が薄れてきたと感じる。  三十を過ぎるまでは「楽しまなくては」という強迫観念さえあった。  今は、そこまでの執着心がない。  だから子どもが大きくなって落ち着いた友人たちに「今度、遊ぼう」と誘われても、あまりいい返事をしないのはそのせいである。  
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