わたしがわたしに還るまで

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 このままでは冴えないが、あのころのようにもなれない。  わたしは、そこに見えない檻があるとわかりはじめた。  自分が生きられるのは過去ではない。今このときと、あとわずかかもしれない未来だけなのだと、気づきはじめた。    とにかく変わらなきゃ。なるべく早く。このまま小さくまとまってちゃいけない。  そう思った。  が、それは駆け抜けるように生きていたころのわたしが、自分に言い聞かせていた言葉だったことに気づく。 「なあんだ」  わたしは、そう独り言ちると二十代のころの自分を思い浮かべた。 ── あのころに戻れば良かったんだ ──  わたしは、わたしに帰るだけだったのか。  鏡を覗いて、だいぶ大人びた顔つきの自分を見て、ささやき声でいった。 「ただいま! それじゃ、行ってきます!」  拳を固めて向かい合うわたしの顔に、ひさしぶりの笑みが広がった。 (了)
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