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第五章『後始末』
「――はい。得られた断片的な情報だけでも、ブリッジ殺害に黒山羊の介入があった可能性は高いと思われます」
男は、電灯すら点けていないガレージの中にいた。明かり取り用の小さな窓から差し込む光だけが、男が乗車している白いクーペを照らす。クーペのエンジンは切られており、男が話す声だけがガレージ内に響いていた。
「つまり、あの中に本人……あるいは奴の指示で動いている者がいるということ。禊屋を使うという会長のご判断は的確でしたね。奴はまんまと我々の前に現れ、そして今まさに尻尾を掴まれようとしている」
男は指先の開いた黒い革手袋をはめた手を動かすと、車のハンドルに付いていた埃を拭き取り、軽く吹いて飛ばした。
『どうだろうな、それは』
通話相手の低い声。男はスマートフォンをあてた左耳側に僅かに顔を傾けた。
『こちらが先んじただけで、相手も同じことを考えていたかもしれん』
相手の言わんとすることを察し、男は小さく息を吐く。
「……そういうことですか。ではまだ、敵には何かしらの備えがあると?」
『得体のしれん相手だ、警戒はしておけ。……アレはまだ生きているのか?』
「使えます。禊屋はあの部屋を最後の舞台に選んだようなので、好都合ですね。バッテリーは残り少ないはずですが、なんとか保つでしょう」
『それなら良い。状況を適宜報告しろ。然るべきタイミングで指示を出す。何か問題はあるか?」
確認されると、男は薄く笑って、空いている手を胸の前に置きながら答えた。
「いいえ何も。ご心配なく、クサビさん。私にお任せくださった以上、完璧な仕事をご覧に入れましょう」
『ふん、大したプライドだな。……だが、それでこそ俺が育てた刃だ』
通話相手は一呼吸置いて、静かに言った。
『では――暗月の騎士の役目を果たせ』
そこで通話は終わった。
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