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プロローグ『グッドラック』
夜の街を男が歩いている。
男は20歳くらい、白いキャップ帽の下からは肩に届くくらいの長い金髪が伸びている。街中でも存在感を放つほど上背があり、また、厚手のジャケット越しにも筋肉質な身体つきであることが見て取れた。
「――わーかってるって。今夜は……ちょっと無理だから、明日は店に顔出すよ。おう、約束約束」
男は左耳にスマートフォンを当て、通話しながら大通りを歩いている。スマホから聞こえる、ふてくされたような女の声に、男は少し面倒くさそうに答えた。
「他の女ァ? ないない、そんなわけねぇじゃん。俺がそんな男に見える? マジ?」
男はコンビニの前で歩みを止め、寒さで若干赤くなった鼻をすすりつつ手で擦った。
二月の下旬、まだ吐く息が白くなる夜。街を行き交う人々もどこか首をうずめがちにして歩いているように見える。
夕桜市(ゆざくらし)南区にある歓楽街――朱ヶ崎(あけがさき)は午前0時を過ぎてもギラついたネオンの明かりが途絶えない。通りを歩けばそこかしこでキャッチの呼びかけ、酔客たちの馬鹿騒ぎ、チンピラ同士の諍いなどといった喧しい音に揉まれる。
もっとも、それらは中心部近くの広い通りに限った話だ。そこから二度、三度と小道に入っていけば、瞬く間にひっそりとした薄暗い闇に迎え入れられる。雑然として、秩序も混沌も入り乱れた街。それ故に、この街に居心地の良さを見出す者もいれば、狩り場の一つとみなす者もいる。
「じゃ、呼ばれてっから、そろそろ仕事戻るわ。おお、またな。愛してるぜー、恭子(きょうこ)」
男が通話を切ると、先程から右耳に付けたワイヤレスイヤホンを通して聞こえる声のボリュームが一層上がった。スマホのインカムアプリによる通信だ。
『おい、聞いているのか? 応答しろ』
男はシャツ胸元に取り付けた小型マイクのスイッチを入れて、やれやれといった調子で、イヤホンからの声に応える。
「はいはい、こちらグッドラック。そんな声張り上げなくても聞こえるって」
グッドラック、それが男のコードネームだった。
『任務中だということを忘れるな。返答は迅速に。声を上げられない状況なら教えた方法で合図を送れと言ってあっただろう』
「あー、了解っす。こっちは問題ナシ。んで、何かあったんすか? 乃神(のがみ)さん」
イヤホン越しの声――乃神は、小さいため息をつきつつも本題に入る。
『目標が動いた。今コンビニの前にいるな? もうじきそこを通るはずだ』
こちらの位置はGPSで乃神にわかるようになっている。
「やーっとかよ。待ちくたびれるとこだったぜ。で、そいつの見た目は?」
『細身の男で、年齢は20半ば。赤いTシャツに黒いジャンパーを羽織っている』
その場で1分ほど待っていると、通りの向こうから情報に一致する人物が歩いてくるのが見えた。男はとくに周囲を警戒している様子でもない。
「オーケー……それっぽいの来た!」
『では予定通り、ここから先の尾行はお前に引き継ぐぞ』
同じ人物が長い時間尾行していると怪しまれる可能性が高い。よって、尾行を二人で分割するというのが今回のミッションだ。
『気づかれないように充分な距離を取れよ。お前はうすらデカくて目立つ』
「わかってるって」
グッドラックはキャップ帽を深く被り直し、ターゲットである男の後ろ10メートルくらいの位置について尾行し始めた。相手に尾行だと悟られぬよう、間には三人ばかり通行人を挟んでいる。
「このまま奴についていって、アジトを見つけりゃいいんすよね?」
前方の男からは目を離さず歩きながら、乃神に尋ねる。
『ああ。連中のアジトを特定するまでがお前の役目だ。無茶して突っ込むなよ』
「へっ、任しといてくれよ。腕っぷしにはちょっと自信あるんすよ、俺」
『会話が成立していない。その腕っぷしを披露する場面じゃないと言っているんだが?』
「いや冗談っす、冗談。……お」
男が、ジャンパーのポケットから何か取り出した。スマートフォンのようだ。短い操作をした後、それを右耳にあてがった。歩きながら電話をしているようだ。
『どうかしたか?』
「いや……目標の男、どこかに電話してるみたいで」
『尾行がバレて仲間に報告されたんじゃないだろうな?』
「それはないっす。こっちに気づいたそぶりなんてなかったぜ」
グッドラックは余裕の笑みを浮かべて言ったが、その時、不意に彼の前に何者かが立ち塞がる。
「あーお兄さんお兄さん! おっぱいどう?」
「あ?」
「一杯飲んだらおっぱい揉んでこうよ! まだ飲んでない? なら飲む前に揉んでって! 綺麗なお姉ちゃんいっぱいいるよ!」
あーもう、めんどくせぇな! おっぱいどころじゃねんだよこっちは。グッドラックはキャップ越しに頭を掻く。
風俗のキャッチだ。このあたりでは風景の一部のようなもので、この街が長いグッドラックは顔見知りの者も多い。今回は初めて見る若い男だったが、どちらにせよ今は相手をしている場合ではない。
「俺、お姉ちゃんよりあんたのおっぱいの方がいいなぁ~」
グッドラックはニタリと笑いながら手をワキワキと動かす。するとキャッチの男は苦笑いし、手を軽く振って去っていった。あしらい方は慣れたものだ。
余計な手間取らせやがって。あいつは……よし、そんなに離れてねぇな。グッドラックはターゲットの男を再捕捉すると、すぐに歩調を整え尾行に戻る。
男の電話はすぐに終わったようで、スマホをポケットに仕舞ってまた同じように通りを歩いていた。
乃神の声が聞こえる。
『……いいか。念のためにもう一度言っておくが、連中はナイツの事務所の一つを襲った強盗グループだ。危険な相手だという認識を持て』
「つっても、数人しか詰めてない小さな事務所で、奪われたのも百万ちょっとのしょぼい強盗(タタキ)だったんでしょ? 応援呼ばれて、ビビってすぐ逃げ出したんだっけ? だいじょぶだいじょぶ、大したことねぇっすよ」
『お前は本当に……』
呆れたような乃神の小言を受け流しながらそのまましばらく歩いていると、男が右の脇道に入っていくのが見えた。
「右の小道に入った。少し距離を空けてから追うぜ」
『わかった。見失うなよ』
グッドラックは男が入った道をさり気なく覗く。ビルの間にある狭い歩道だ。道幅は5、6メートルほどで、明かりは街灯がぽつぽつとある以外には、ビルの窓から光が漏れているくらいだ。
尾行対象の男は、20メートルほど先の突き当たりを左に曲がるところだった。
「突き当たりで左に曲がった。そろそろ近づいてきたか?」
グッドラックは朱ヶ崎の街には明るいほうだと自分では思っている。この周辺にはあまり来たことはないが、確か、ここからもう少し進めば古いアパートが立ち並ぶ一帯に出るはずだ。そこに連中のアジトがある可能性は高い。
追う足取りを気持ち早め、突き当たりを男の進んだとおり左に曲がる。その先にあったのは、神社を擁する小さな公園だった。いや、神社の境内が公園のようになっているというほうが正しいか。神社とは言っても、古びた鳥居の先に祠のようなものがあるだけだ。公園らしい要素も、休憩用のベンチの他には、動物の形をした子ども用の乗り物遊具が数台あるくらいだ。それらも古錆びていて長年使われた形跡はない。それも当然で、こんなビルに囲まれた裏通りの一角に子どもが寄り付くはずもないだろう。昔はもっと開けた場所だったのかもしれないが。
へぇ、こんな場所があったのか。街の大体の地理は頭に入っているつもりだったけど、ここは知らなかったな。まあそんなことはどうでもいいや。あいつを追わないと――
「こんばんは」
不意に右の物陰から若い男が出てくる。気さくに声をかけてきたようだが、その顔に覚えはない。にやついた表情をしていた。
無視して通り過ぎようとしたら、男は行く手を塞ぐようにグッドラックの前に出た。
「おーっと、動かないでくれる?」
「あ――?」
男は腰元で構えたオートマチックのハンドガンを見せつけるようにする。銃口はグッドラックの脇腹あたりを狙っていた。
グッドラックが動きを止めると、それを合図にしたかのように他の物陰から男達が現れた。
「あんた、俺のことつけてきてただろ?」
その中の一人は、尾行対象――黒ジャンパーの男だった。グッドラックは驚きで口を大開きにしてしまう。
「うっそだろ……バレてたのかよ!」
「尾行下手すぎだよ、あんた。ずっと見られてる気配がすごかったし。ああいうのはもっと自然にやらないと」
「マジか…………」
初めてのわりには上手くやれてるし素質あるんじゃね俺?って思ってたのに! 案外、難しいもんなんだな……。
『だからあれほど気をつけろと言っただろう……』
イヤホン越しにため息交じりの乃神の声が聞こえる。多分、頭を抱えているのだろう。
だってよ、しょうがねぇじゃん。自分では気をつけてたつもりだったんだよ、マジで。
グッドラックは舌打ちしながら尋ねた。
「……お前の仲間か、こいつらは?」
「その通り。俺のために駆けつけてきてくれた、頼もしいお友達のみなさん」
ということは、さっき黒ジャンパーの男がかけていた電話は、乃神の言っていたとおり仲間を呼ぶためのものだったのか。ここで待ち伏せにしようと呼びかけていたのだろう。見回したところ、人数は四人。見える範囲で銃を持っているのは目の前の一人だけで、他はナイフや金属バットだ。
「――で、あんたは何者? なんで俺をつけてきてたワケ?」
男の問いかけに、グッドラックは鼻で笑って返す。
「とぼけてんじゃねぇよ。追われる心当たりはあんだろ? 俺はナイツの人間だ」
それを聞いて、男は不快そうに舌打ちした。
「ちっ……まさかと思ったが、やっぱりか。でもあんたみたいな馬鹿そうなチンピラが来るとは予想してなかったな」
「ああん?」
「にしても、意外と早かったなぁ。もうちょっとくらい誤魔化せると思ってたんだけど」
「へっ、まったく……バカだねお前ら。逃げられるわけねぇだろ、天下のナイツからよ」
乃神から『余計な挑発をするなバカ』と注意が入る。
男たちは互いに顔を見合わせながら話し合う。
「……どうするよ?」
「流石にナイツと正面切ってやり合うのは無茶だな。まあ、逃げる準備だけはしてあるから大丈夫だよ。こいつは殺すけど……」
「やっぱそうなる? じゃ、俺が……」
銃を持った男がにじり寄って、拳銃の銃口でグッドラックのキャップのつばを押し上げた。そして、右目の上あたりを狙って構える。
「ま、一瞬で終わるから。悪く思うなよ」
「……俺を殺すって?」
グッドラックは動じることなく深く息を吐くと、側にある神社の祠の方を見て言った。
「……いいのかよ? 神様の目の前で」
男は馬鹿にしたように笑う。
「気にすんなよ。きっと神様も、この時間はおねむだぜ」
すると、グッドラックは男に向かって不敵に微笑んで見せた。
「やめといたほうがいいと思うぜ。そうだよなぁ? 乃神さん」
「あ? のがみ?」
近くに誰か仲間がいるのか――と男たちの視線が泳いだ。
イヤホンから声がする。
『――強引な手は避けたかったが……いけそうか?』
「ヨユーっすよ」
答えると同時に、グッドラックは素早く銃口から頭を逸らすように動かし、更に右手で男の手首を掴んだ。
杜撰なやり口。至近距離で正面から頭を狙うなど、相手に狙いを外されるリスクが高まるだけだ。それを理解していない、つまり、相手はプロじゃない――この街で数え切れないほどの喧嘩を繰り返してきた経験から、考えるというよりは感覚的に、グッドラックはそれを察した。
「らぁッ!!」
左の拳を力いっぱい、男の鼻柱に叩きつける。男は鼻血を吹き出しながら倒れ、グッドラックはその銃をもぎ取った。得意げに銃を構えて、他の男たちへ牽制するように向ける。
「おらおら、どうだ! まだやるか!? これで形勢逆て――」
「このっ!」
脇から振り下ろされた金属バットが銃の先端に当たって、グッドラックの手から弾き飛ばされる。
「あっ……あらーっ!?」
銃は地面を跳ねて手の届かないところまでいってしまう。せっかく奪った武器だったのに。
「ああもう――じゃあ、覚悟しろよな!?」
グッドラックは再びフルスイングされたバットを右腕の厚い筋肉でブロックすると、相手の足元、膝の外側から回し蹴りを入れる。膝関節を破壊され相手がバランスを崩したところを狙い、更に脇腹へ2発目の蹴りを打ち込み、続けて頭の上から拳で鉄槌打ちにする。男は短い悲鳴を上げて倒れ込んだ。
入れ替わるように、別の男がナイフを構えて突っ込んでくる。グッドラックは足捌きで身体の軸をずらして、突き出されたナイフの刃を躱し――同時にナイフを持った腕を絡め取り、肘を折る。激痛に悶える男の顔面に、更に裏拳からストレートパンチを続けて叩き入れてノックアウトさせる。
「ちっ……!」
黒ジャンパーの男は舌打ちしてグッドラックから逃げるように走り出した。仲間が全員やられて、不利と判断したのだろう。
「てめっ、逃がすかっ!」
グッドラックも全速力で走り出す。
「乃神さんっ、一人逃げたけど……追っかけたほうがいいよな!? 多分あいつがリーダーだ!」
『ああ、他の奴らはこちらに任せておけ。逃がすなよ』
「了解!」
黒ジャンパーの男は、グッドラックを撹乱するように入り組んだ裏路地を右へ左へと逃げるが、グッドラックも必死に食らいつき、一定以上の距離を離すことを許さなかった。グッドラックは走りには自信があったが、相手もかなりの俊足と見える。
「クソが……しつけぇんだよ!」
男は走りながら、道端に転がっていた空きビール瓶を拾い上げると、後ろのグッドラックに投げつけた。
「うおっ――あぶねっ!」
頭を逸らし、寸でのところで躱す。そのまま走っていたら顔面に直撃するところだった。
やってくれるじゃねぇか、この野郎! グッドラックは一層奮起して走る。
男とグッドラックはそのまま大通りのほうへ抜け出た。ちらほらとではあるが、まだ一般人の往来する姿が見える。あまり目立つとまずいが、気にしていられる状況じゃないか。
黒ジャンパー男の走る先に、スーツ姿の中年のサラリーマンが見えた。仕事帰りのようだが疲れからか視線が下を向いており、自分が邪魔になっていることに気づいていないようだ。
「おい危ねぇぞ、どけ!」
グッドラックが叫んだことでサラリーマンはやっと気づき、「えっ!?」と声を上げるが、咄嗟のことで動けないようだった。
「うわぁっ!」
サラリーマンは防御のために顔の前で腕を交差する。激突する――かと思われたが、黒ジャンパーの男はギリギリで躱して横をすり抜け、更にサラリーマンをグッドラックの方へ突き飛ばした。
「くっそ……!」
一般人に怪我をさせたら騒ぎになってしまう――グッドラックは反射的にブレーキをかけ、サラリーマンの男を受け止めた。「ひぃ」と声を上げ怯えているサラリーマンのことはその場に置いて、すぐに追跡を再開するが、相手との距離は離れつつある。やはり相手はかなり走り慣れている。体力もそろそろキツい、このままだと振り切られてしまいそうだ。
黒ジャンパーの男は大通りから脇にある小道へ入っていく。そこは急な下り坂になっており、幾つもの階段が踊り場を挟みながら狭い間隔で連なっている。おそらく高低差を利用して振り切ろうという魂胆だろう。
小道に入ってすぐの広い階段は、間を仕切るパイプ状の手すりを境にして、左右の二列に分かれている。両端はタイルの壁で、それぞれ同じような手すりが設置されていた。黒ジャンパーの男は左側壁際の手すりに近づくと、その上に飛び乗り、シャーっとまるで滑り台を滑るかのように降下していく。グッドラックも同じように手すりを利用して滑り降りる。
「まだ来んのかよ……いい加減に、しろよ……ッ!」
うんざりしたように黒ジャンパーの男が漏らすと、壁際の手すりを途中で降り、仕切りになっている方の手すりを乗り越え、階段の反対側へ向かって駆け出した。その先はちょうど壁の切れ目になっていて、へそほどの高さの欄干を乗り越えてしまえば、一気に2、3メートル下の別の道に降りられる。男はそこへ逃げるつもりだ。
「この……させるかよ!」
これ以上逃げられると勝ち目がねぇ。ケリを着けるならここしかない。奴に一気に追いつくには……こうだ!
グッドラックは滑り降りる勢いを利用し、手すりをまず右足で蹴ってジャンプし、途中、二列の階段を仕切る手すりの上を左足で蹴って更に跳んだ。二回目のジャンプで少しバランスを崩しかけたが、なんとか男に追いつく。男が欄干を乗り越えかけたところで、その背中からのしかかるように追突した。
「うわっ――!?」
男は空中で体勢を崩し、そのままグッドラックと一緒に下の地面へ激しく落下した。
「いってぇ……」
グッドラックは身体に付いた泥を払いながら呟く。土の地面で助かった、これがコンクリなら大怪我もあり得た。傍らに倒れている黒ジャンパーの男のほうへ近寄る。
「おい……おーい!」
男の頬を強めにひっ叩くが、今の衝撃で気絶したらしく、うなされているように呻くだけだった。
まあ、死ぬような怪我はしていないだろ。多分。
グッドラックはヤンキー座りになって、胸元の小型マイクに向けて語りかける。
「よぉ乃神さん。こっちはなんとか捕まえたぜ」
『そうか。こちらもお前が倒した三人とも確保したところだ。アジトの位置もすぐに割れるだろう』
「そうか、って……軽いなぁ! 俺、お手柄だったっしょ? これもしかして、特別ボーナスとかあるんじゃないっすか?」
ウキウキ気分で尋ねると、乃神からは特大のため息で返された。
『結果だけ見れば成功だが、危険すぎるし、目立ちすぎだ。お前が尾行を成功させていればもっと穏便に済んだ。むしろ反省しろ』
「なんだよ~、厳しいんだよなぁ。いいじゃないっすか、成功したんだからさ」
『いいわけあるか。ナイツは求める利益のため、常に合理的であることをよしとする。一度組織に入ったからには、プロに徹しきれない者――意向通りに動けない者は、いつ排除されてもおかしくないと思え』
「うっ……でもよぉ」
『プロは言い訳しない』
「わーかった、わかったって! くっそ……」
グッドラックは落胆して項垂れた。
『……だが、お前の実力が一定以上であることは認めよう』
「うん?」
ひょいと顔を上げる。なにやら風向きが変わったようだ。乃神は思案するような口調で続ける。
『まだ……そう、まだまだ不安は残るが……今は人手も不足していることだしな。どうせ経験は積まねばなるまい』
乃神は言いながら、不安に感じる自分を無理に納得させているような感じだ。
「はぁ……なんなんすか? いったい……?」
『お前には、次から新しい相手と組んでもらう。まだ具体的な予定は決まっていないが……』
「新しい相手? それって誰なんすか?」
乃神はグッドラックの問いに、一呼吸置いて答えた。
『うちのエースだ。一応な』
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