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【第7話】ハートビートなきっかけ
「そっか……話してくれてありがとう」
そう言ってアカリは再び歩き出し、私もつられて後を追う。
「ウチもさー、昔似たことがあって……だから少しだけ気持ちわかる」
そういって聞かせてくれたアカリさんのケースは、完全にもらい事故のような内容だった。
中学生の時、ボス的な女子の彼氏がアカリに一目惚れし、振られたボス女子が逆恨みで彼女にイジメてきたらしい。
アカリさん自身はその彼氏とやらが微塵もタイプじゃなかったらしく、「ごめん無理」と一言で切って捨てたとのこと。
しかし、イジメはその後も続いたらしい。
「そんで、ある時ついに取っ組み合いの派手なケンカになったけど、最後に思いっきり引っ叩いてやったわ」
と物凄く晴れやかな笑顔で言い切った。
「だからね? 何してたって突っかかってくる奴だっているんだし、気にして自分をしまっちゃうだけ勿体ないよ。それにそのヨルちゃんのムーブ凄く格好良いと思う!」
そう言って、再び太陽のような笑顔を向けてくれた。
彼女は本当に凄い。
その陽光は胸の内にこびり付くドヨドヨした黒い霧を暖かく溶かしていった。
「ふふっ、私も少しだけアカリを見習ってみるよ」
「そうそう、そんな奴なんて気を遣う必要無いって……あっ!」
何かを思い出したような彼女の声に首をかしげる。
「名前、さん付けじゃなくなったね!」
そう言って放たれた矢のようにすごい速さで抱きついてくる。
高速タックルをその身で受け止めつつ、無意識でやってしまった気恥ずかしさから顔に血液が集中する。
慌てて訂正しようとするも、結局それが放たれることはなかった。
たぶんこれは、打算じゃなくて心からの言葉だったから。
初めて自分の意志で言葉を飲み込み、為されるがままになった私は、それから暫く操り人形のようにダンスに付き合わせられ続けるのだった。
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