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見えるようになってしまったのだ。自分にも、人の感情が。
明るい感情と暗い感情。良い感情は回りを明るく照らして、いつしか消えていく。
悪い感情は突き詰めてはいけない、と彼の祖母が言った理由が今なら分かる。
あれは足もとから広がり、澱んでいく。心の片隅に集まって、縒り合わさって一本の境界線を生む。
それは、生と死のはざま。心と体を別つ、境界線と化す。
人生は喜びよりも不遇の連続だから、時に暗闇を見つめたくなることもある。
見えるようになれば、いつか生み出した者を飲み込む。彼もそうだったんだろうと思う。
彼は消えた。再び、消えてしまった。
自分の足もとを凝視する。蠢きうねり、絡まる黒い鱗の紐が現れ、触れてほしいと誘惑する。
彼はどこへ行ったのだろう。
疑問の答えは境界線を示す、注連を越えた先にある。
<了>
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