注連(しめ)を解く

9/16
前へ
/17ページ
次へ
「身体から出た黒い感情が寄り集まって、暗く細い線になる。これってどういうことかと考えたんです」 「それはつまり……感情を作り出す心と、それを収める器である身体、互いをつなぎ止めている境界線だとでも言いたいのか」  疑いつつも、要旨を口にする。  同意を得たと思ったらしく、青年は満面の笑みを浮かべた。 「そうです。身体から湧いて出たんだ。なにか意味がある。だから絡まった紐を解いてみたくなったんです」 「そんなことができるはずがない」 「もしかしたらどこか未知の、向こう側へ行けるかもしれない。きっと、解放される」 「そんなわけがないだろう」 「当然、そう思いますよね」  あれは、部屋の隅に集まると絡み合い、どんどんくっついて、縒り合わさって紐みたいになっていくんです、と語る。 「表面が、固い(うろこ)みたいに見えるんです」  手に取ったしぐさで、両手を凝視している。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加