注連(しめ)を解く

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「黒いんですけど内側から多色性の光を放っていて、流れる水面のように、きらきらと明滅しながら回転していくんです。表にある面は中へ中へと潜り込む。まるで何匹もの大きな蛇が締めつけ合い、密に絡み合うかのように。継ぎ目のない結び目のように、内側へと永遠に飲み込まれていくんです。すごくきれいだった」  話しながらも、どこか焦点の合わない目で陶然とした表情になる。 「ながめていると……気分が落ち着いて、このまま消えてしまえるような……嫌なことはなにも考えずに、苦しまずにこの世からいなくなってしまえる気がして」  続きは口にせずとも伝わる。 ──そうであれば、どんなに幸せなことか。  否定できずに、身の毛がよだつ。  だから確かめてみたんです、と彼は言った。 「紐は、こう固まって──」  赤ん坊の頭くらいの球を、両手のひらで受ける手つきをして、回転させて上下を裏返す。 「──外側が内部へと、とめどなく巻き込まれていくんです。ほどこうと指先を這わせたら、手がそのまま飲まれた」 「え……?」 「気づいたら、真っ暗闇でした。目を凝らしてもなにも見えない」
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