14人が本棚に入れています
本棚に追加
身動きができない。
狭い空間でなにかに締め付けられている。苦しいのに、高揚感があった。これでいい、このままでいれば──
「死んでしまう。それでもいい。そう思ったら目の前に、ふいに何かが見えました。暗くて小さな穴を覗き込んだかのように、目が合った。人の目でした。お互いがすこしずつ離れていくうちに、相手の顔が判別できたんです。見覚えのある女の子でした」
ゆっくりと言い切って、大きく息をついた。
遠ざかっていく、少女の顔は──
「あれは、僕──いえ、わたしの顔だったんです」
なにを言われたのか、理解に時間がかかった。まさに、鳩が豆鉄砲を食う、という諺を体現していたと思う。
「な……っ、なに、を言ってるんだ?」
ちょっと待て、かつがれたのか。これは悪ふざけなのか。
笑うに笑えなかった。
「気がついたら、自分の部屋で寝てたんです。でも、何かが違う。明らかに変わってしまっていた」
「ちょっと……待ってくれ、それって」
「ええ、入れ替わったんです。どこかの世界の誰かと。たぶん、同姓同名の」
女から、男へ。
彼は、清々しく笑って言った。
最初のコメントを投稿しよう!