注連(しめ)を解く

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 身動きができない。  狭い空間でなにかに締め付けられている。苦しいのに、高揚感があった。これでいい、このままでいれば──  「死んでしまう。それでもいい。そう思ったら目の前に、ふいに何かが見えました。暗くて小さな穴を覗き込んだかのように、目が合った。人の目でした。お互いがすこしずつ離れていくうちに、相手の顔が判別できたんです。見覚えのある女の子でした」  ゆっくりと言い切って、大きく息をついた。  遠ざかっていく、少女の顔は── 「あれは、僕──いえ、わたしの顔だったんです」  なにを言われたのか、理解に時間がかかった。まさに、鳩が豆鉄砲を食う、という(ことわざ)を体現していたと思う。 「な……っ、なに、を言ってるんだ?」  ちょっと待て、かつがれたのか。これは悪ふざけなのか。  笑うに笑えなかった。 「気がついたら、自分の部屋で寝てたんです。でも、何かが違う。明らかに変わってしまっていた」 「ちょっと……待ってくれ、それって」 「ええ、入れ替わったんです。どこかの世界の誰かと。たぶん、同姓同名の」  女から、男へ。  彼は、清々しく笑って言った。
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