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「男の身体となってわかったのは女の、……少女の身はどれほど危険にさらされているのかということでした。狙われる、弱い獲物ではなくなって、とても安全になったから」
それでも、男同士の競争は熾烈でしたが、と笑う。
「この身体、頭は悪くなかったから助かりました。両親も喜んでくれましたよ」
「両親……? 離婚したんじゃなかったのか」
「なぜか、別れてないんですよ。すこぶる仲がいいとは言えませんが」
ふふ、と含んだ笑いで応じる。
「我が子が男だったから、この世界の両親は別れずにすんだのかもしれませんね」
でも、と続ける。
「なかなか都合良くはいかないんです。今度は自分に嘘がつけなくて困りました。取り繕っていけると思ったんですけど、身体が変わっても中身は、心は変わらない」
彼は右の手のひらを胸の中央に置いて、視線を落とした。
「わたしの心は異性が好きでも、男の身体だから同性愛になってしまうんです。ずっと隠していましたが、ついに両親にばれてしまって……家に居づらくなってしまって」
「それで、なるべく家にいたくないから深夜や早朝のアルバイトを?」
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