注連(しめ)を解く

13/16
前へ
/17ページ
次へ
 ええ、と青年はうなずいた。 「こんなことを他人に話したのは、はじめてです」 「親御さんには、理解してもらえないのか?」  彼はこちらに目を向けた。澄んだ目には透明な感情があった。 「いいんです、もうあきらめました」 「え……、それはどういう……?」  言葉の意図を問おうとしたが、彼は答えなかった。  唐突に透明な壁が現出して、あいだを冷たく(へだ)てたかに感じた。  それきり彼は、あたりさわりのない接しかたに終始した。近づいたかと思った親密さは、遠く去ってしまっていた。  話を切り上げて会計を済ませ、退店する。店の外で、青年は礼儀正しく飲み代の礼を告げてきた。  「どうして、僕を誘ってくれたんですか」 「どうしてって……」  彼の顔へと視線を向ける。  白く、闇に浮かび上がる顔。どことなく定まらない、中性的な雰囲気をまとう。  他者と違う違和感が、俗っぽい明かりを放つ夜の街から浮かび上がって見える。ぼんやりと考える。どうして、か。 「別れた女房と暮らしてる息子が、きみと同じくらいの歳だったから、かな」 「そう、ですか」  まっすぐに向けられた視線が、ふっと緩む。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加