14人が本棚に入れています
本棚に追加
ええ、と青年はうなずいた。
「こんなことを他人に話したのは、はじめてです」
「親御さんには、理解してもらえないのか?」
彼はこちらに目を向けた。澄んだ目には透明な感情があった。
「いいんです、もうあきらめました」
「え……、それはどういう……?」
言葉の意図を問おうとしたが、彼は答えなかった。
唐突に透明な壁が現出して、あいだを冷たく隔てたかに感じた。
それきり彼は、あたりさわりのない接しかたに終始した。近づいたかと思った親密さは、遠く去ってしまっていた。
話を切り上げて会計を済ませ、退店する。店の外で、青年は礼儀正しく飲み代の礼を告げてきた。
「どうして、僕を誘ってくれたんですか」
「どうしてって……」
彼の顔へと視線を向ける。
白く、闇に浮かび上がる顔。どことなく定まらない、中性的な雰囲気をまとう。
他者と違う違和感が、俗っぽい明かりを放つ夜の街から浮かび上がって見える。ぼんやりと考える。どうして、か。
「別れた女房と暮らしてる息子が、きみと同じくらいの歳だったから、かな」
「そう、ですか」
まっすぐに向けられた視線が、ふっと緩む。
最初のコメントを投稿しよう!