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八年も前に。
すでに、亡くなっている。
断続する電子音が、頭のなかで、こだまする。
一体、どういうことだ?
考えるしかなかった。本人の口から、身の上話を確かに聞いた。
絶望から逃れるために自らの身体からあふれだしたものに触れ、飲みこまれたと告白された。そして──
耳もとで続く断続音がうるさい。通話を切って目を閉じ、天を仰ぐ。現実が揺らぐようで、なにかにつかまっていないと不安だった。
彼は男ではあるが、心は女性だと語った。女の子だった身体から、男の子の身体に乗り移ったと明かした。
では、乗り移る前の、少女の身体はどうなった?
電話口の母親らしき女は、娘は死んだ、と叫んだ。
死んだ? 入れ替わったから?
彼の話を信じるならば、彼と暮らしていた両親はどうなったのだろう。彼が消えたことで彼のまわりの変化は修正され、別れずにいた両親も存在しなくなった──?
世界が元通りになって、俺は少女を亡くした母親に電話をかけてしまったのか。
もしくは適応できない心身を抱え、思い詰めた青年の妄想に付き合わされただけだったのか。
あの日からひとつだけ、変化があった。
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