注連(しめ)を解く

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注連(しめ)を解く

 職場には、学生のアルバイトが何人かいた。シフトの関係で、その一人と深夜や早朝に顔を合わせるようになった。  青年は、永田響生(ひびき)と名乗った。大学二年生だという。  先月に二十歳(はたち)になったばかりだと聞いた。本人の弁では友人が少なくて、いまだに居酒屋に行ったことがないらしい。  それならば、と誘ってみれば、是非、と感じよく応じるものだから、飲みに行くことになった。  彼は、血色がよくなるていどで酔いが表に出ない。やがて緊張が緩んだのか、だいぶ打ち解けたように感じた。  大学も忙しいだろうに、よく深夜や早朝のバイトが続くものだと感心してみせたら、彼は親と顔を合わせたくないのだと漏らした。 「僕の両親は、幼いころに離婚したんです」  そうか、と応じると、彼はふだんどおりの笑顔を見せた。 「母に引き取られたんですが、しばらく祖母のもとで暮らしてました」  聞けば、祖母も離婚しており、姉妹を女手ひとりで育てた。離婚の理由は、祖母は相手からの暴力、彼の母親は相手の浮気だったそうだ。 「祖母はすこし変わったところがありました。人の感情を読めるようでした」
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