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「感情……? つまり、空気を読む、みたいな?」
「いえ、文字通り、感情そのものなんです。気分がいいときの感情は、頭から明るく波状に広がる。反対に悪い考え、負の感情は、足もとから四方へ散る、そう言ってました」
へえ、と相づちを打ちながらも、奇妙な話だと考えていた。
「明るい感情は個人から広がって周囲を照らし、影響を与えつつすぐに消えてしまう。けれども悪感情はそうではないんです。祖母から言い含められてきました。あれは澱んで寄り集まるから、決して凝視してはいけない、と」
うさんくささに、困惑をおぼえた。
目の前の青年は微笑んで話し続ける。
「小三になってすぐに、祖母は亡くなりました。なので、また母と暮らすことになりました」
知ってますか、と真顔で問われた。
「意外にも、子持ちの離婚女性はもてるそうなんです」
「ああ、……それは知ってる」
良くない意味で。SNSでも話題になった。だがそれは、連れ子の性別が女児であった場合だった。
「母の恋人は、頻繁に家に出入りするようになりました。すごく嫌だった。そいつは合鍵を持っていたので、わざと母がいない時間に来るんです」
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