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表情を見れば、察するに足る。作り笑顔を浮かべ、なのに目は笑っておらず、感情を抑えて淡々と語る。
ひどく残酷な環境で育つ者は存在する。妄想とか、作り話などではない。腹の底に泥が詰まったようで、酒の味がしなくなった。
「子どもながらに考えて、できるかぎり外で過ごすようにしました。でも探しに来るんです。人の目があるかぎりは手を出してこない。だけど誰もいない場所では、従わないと怒鳴られる。まるで人が変わったように」
「だれかに伝えた?」
無言で首を振るのを見て、愚問だと思い知った。弱い立場の者が、だれにでも話せる安心な世のなかであれば、被害者など生まれない。
「もう、それはいいんです。そいつ、死んだから」
「──え」
「酷いんですよ。そいつ、ほかにも手を出してたんです。別の子どもに悪戯して、捕まったんですよ。悪戯っていうけど、まぎれもない性犯罪ですから。こともあろうに、あいつ警察の取り調べでなんて弁明したと思います?」
咎める口調に、気圧される。両目がこちらを向く。興奮のあまりに、瞳孔が開いている。
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