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「母が嘆くんです。あんな、どうしようもない奴なのに──」
言葉が詰まった。目を閉じて息を吸い、吐いて目を開く。
こう言われました、と語り出す。
「おまえが我慢すれば、こんなことにならなかったんじゃないかって」
「そんな! ありえないだろ」
反射で声が出た。偽らざる気持ちだった。
「誰がどう言おうが、きみには非はない。絶対にね」
青年は、ふっと表情を緩めた。目を見張るほどに和らいだ笑顔でこう答えた。
「ありがとうございます。嬉しいです。母もね、次の瞬間には我に返って、泣きながら謝ってくれたんです。何度も何度も。親でも人だから、魔が差すこともあるかもしれない。許そうと思ってました」
彼は、ゆっくりと頭を振った。
「いや、そんなことをしなくても許せると思ってた。結婚しようと思ってた相手が死んで、混乱してただけだって」
でも、と続ける。
「見てしまったんです」
「なにを……?」
「母の足もとから、良くないものが広がるのが」
それは、黒い小さな固まりが次々と、ぼろぼろとこぼれるようにあふれ出てくるんです、と青年は口にした。
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