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「子を要らないと考えている親と、一緒に暮らせますか」
青年は淡々と語り続ける。
「耐えられませんでした。許せなくて、気がついたら、自分の足もとからも、たくさん湧いてたんです。黒い蛆虫がうねって、踏み場がないほどだったんです。もう一歩も動けない。これが自分の現実だと思い知りました」
「……」
喉が固まってしまっていた。
どんな慰めの言葉をかけようとも、疑いを抱いた相手を許せなければ相手の心には届かない。
「注連縄ってわかりますか」
唐突に話が飛んで、要点を見失う。思わず訊き返していた。
「しめなわ? 神社にかけられている縄のことかい?」
「ええ、そうです。あれは境界線なんです」
「境界線……?」
「内と外、神域と外界、聖域とそうでない場所を区別する線引きです。たとえば人の魂は身体に宿っていて、守られている。そこから人の目に見えないものが出ていて、明るい光や暗い影が放出され続けている。これは、つまり──」
だめだ、と思った。そんな妄想に取りつかれてしまったら、まともではいられない。
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