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山に行こうと誘われて出かけたのに、おかしい。ずっと下っている。
なだらかな場所が続いたと思ったらまた下り道。
少し前を歩く友人は呑気に鼻歌を歌っているけれど、進むべき道を間違っていないとアピールする為のように思えてしまう。
「ねぇ、見てよ」
満面の笑みで指差す友人に釣られて見ると、そこには高い高い山の上に意地を張って建っているような小さくて頑丈そうな家があった。
「あれがどうしたの?今からあそこに行くの?」
「気がつかなかったの?あなたが今までいたのはあの家だよ」
「そうだったの?じゃあ元々山にいた私に山に行こうって誘ったの?」
不思議で聞くと友人は楽しそうに笑った。
「そうだよ。やっぱり忘れていたんだね。一人で閉じこもってしまったあなたに会いたくて、毎日、あの山を登っていたんだ」
「じゃあ、山には行かないの?」
「ううん。行こう。私の住んでいる山に。知ってもらいたいんだ。山は他にもあるし、一人じゃないって。大変な思いをしても会いたいと思っていることも」
恥ずかし気もなく爽やかに言う友人と一緒に山を登る。
本当だ。一人じゃなくても登れるみたいだ。
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