盲目に愛す

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 小学生の頃から変わらないやり取り。幼馴染というのは面倒臭い存在だ。誰よりも自分のことを知ったように話を進める、勝手に救おうとしてくる。頼んでもいないことをよくもまぁ次から次へと。でも、律月のそういうところに助けられた。何度も何度も。  僕よりも少しだけ身長が低く、軽い、一つだけ年上の幼馴染。 「僕が非力すぎるんだ」  律月を背負って、どれだけの時間この足場の悪い山道を歩いたか。自分の腕にはあまり感触が残っていない、彼女の体温さえも感じることができない。ただ重くのしかかる。もうあまり時間が無いか。  一度、彼女を降ろして休憩しようと頭を過る。だが、すぐに首を横に振って霧にする。もう少しだけ頑張ろう。そうしたら律月も僕が成長したと認めてくれるだろうか?  乾いた唇、喉が鳴る。秋の森林に吹き込む風は冷たいはずなのに、妙に喉が渇く。 「ねぇ、司は楽しかった?」  ふと、律月が問いかける。僕はそのまま視線を前のまま、彼女の言葉に返事をしない。 「私は楽しかったよ? だって、高校生の最後にやっと司と同じになれたんだから」 「僕を救った気? 対等になったつもりか?」 「どうだろう。司の気持ちが分かった気がする。こんな辛い思いしてたんだね」  僕は目付きが悪い。右の眉には縦線の怪我の痕が残っており、それも相まって余計に怒っているように見えるらしい。それに加えて、自分は引っ込み思案で何か言われても、言い返すようなことをしない。だからだろう。僕は他人にとって都合の良い人間。おかげでずっと虐げられる生活を過ごしていた。直接的に、そして隠匿に、僕の体にはあちこちの痕が刻印のように主張する。  それに比べ律月は見て見ぬふりができず、すぐに手を差し伸べるような存在。僕と違って明るい性格からか友人だって多い。頼んでもいないのに彼女は僕を守る、友人を使ってでも。 「律月のおかげで、中学、高校と過激さを増していく一方だった」 「ごめん」  彼女の行為は誰の目から見ても僕を救うためのものだった。でも、それを快く思わない人間だっている。高校生になっても、彼女は僕に救いの手を差し伸べた。でも、それがいけないことだった。
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