盲目に愛す

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「律月が苦しんでどうするんだよ」  突如として彼女は標的にされるようになった。よりにもよって高校三年生のこの時期に。必死に隠している様だったが、律月に漂う黒い感情を見過ごすことはできない。何故ならば、僕と同じだから。  彼女が作る笑顔は寸分狂わずに同じ。しかし、律月は泣いていた。僕の知らないところで声を枯らして叫んでいた。 「律月、何で僕を救った? 最初から僕に関わらなかったらこんな目に遭わなかったのに」  律月はそれ以上、何も答えない。 「律月は僕と違うんだ。最初から何もかも……うっ……はっ……!!」  真っ暗闇の中、足元をよく見ることができていないせいで踏み外してしまった。急に体勢を崩してしまい、もはや力のない腕から律月を放してしまう。  視界が白黒に暗転し、体は抵抗することもできずに地の底へと滑り落ちていくよう。   * 「いたっ……」  つんざかれた皮膚の痛みが強制的に意識を呼び起こす。よく見ずとも制服は修復できないほどに破け、靴も片一方どこかへ失くしてしまったようだ。 「律月……律月……!!」  自分でも分かるほど気迫の無い声が山中に反響する。体中を巡る血まみれの痛みをも忘れ、辺りを駆ける。ふと、噎せ返るほどの彼女の香りが鼻に届けられる。僕は釣られるようにして進んでいくと、より一層それは濃くなる。  すると、律月は仰向けに寝込むように倒れていた。  その瞬間、僕はこの世界で律月だけが鮮やかに見えた。辺りの景色は靄がかかり、彩が一切ないというのに。  僕はそんな彼女の元へと急ぐ。 「律月……よかった」  律月は何も答えない。そもそも答えるはずもないのだから。  彼女の光の失われた黒曜色の瞳、この手で瞼を閉ざす。 「楽になった? こんな目に遭う必要なんてなかったんだ。苦しんでたよ律月。無理してさ、僕には強がりを見せていたけど」  あんなことがあったのに彼女には傷一つ無かった。ただ一点だけ、彼女の首元には僕が残した愛しい絞め痕だけが燦々と彼女を彩っている。 「誰かに傷つけられるぐらいなら僕が愛すから。そっか、ここが目的地か」  僕は律月の隣に倒れ込む。  ここが山のどの辺りか分からないが、空気は濁り、酷く不味い。腐食した土の感触が全身を包み込むようで最悪だ。  霞む視界の中、ふと空が僕を見つめていた。いつの間にか世界は夜も明けようとしているのか鈍色の景色が広がっている。  なんだ、思っているよりも僕の視線は鮮やかなんだ。  世界に溶け込んでいくように腐っていく。もはや血の匂いも感じられないほどに。  ただ、鈍色の空は僕と律月を祝福している様だった。
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