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メガネというものをこの時、僕は初めて手に取った。
女の子が立ち去ったあとでメガネをかけてみようという好奇心が生まれたが、なんだかどこの誰がくれたかも分からない得体の知れないものだからと少し怖くもなった。が、考えた末にやっぱり好奇心が少し勝って、僕はそのメガネを持ったまま家に帰った。
家に家族がいないのも普通になった。
前は父と母と妹がいたが、
クラスの子と同じ冷たい目線で僕を見続けていた家族はいつのまにか荷物を置き去りしたまま、三年前に僕のそばを立ち去った。
妹を連れていったのは、制作でも絵画でも勉強でも何でも器用にこなせる子だから?
理由はやはり分からない。
でも大丈夫。俺は小さな子供ではない。
生活費は毎月家族が置いていった通帳に振り込まれているし……寂しくはない。
この家に唯一置いていったものといえば、幼い頃にベランダで、お気に入りの鈴をりんと鳴らした妹の側で、母が僕に言ったこと。
「辛いときは上を向いて歩きなさい」
僕が持ち合わせている、たった一つの優しい思い出だけ。
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