メガネ

3/5
前へ
/7ページ
次へ
 夜空を見たいと思って、二階の自分の部屋に行く。  薄暗く、もやのかかった世界。  この世界全部が、フォグブルー色。  それはみんなが首をひねる、僕にとっては普通の世界。  ぼんやり考えて、ふと手に持ち続けていたメガネのことを思い出した。 『あなたが思うことは、ある意味でただしい』   なんのことだろうか?  ある意味でただしいとはどういうことなのか。そもそも僕は少女とまともに話をしていないのに、ただしいもただしくないもあるのだろうか。 『もしかしてあなたは光を見分けられない目の障害があるの?』  障害ってなんだろうか。  僕は少女にもらったメガネをかけ、夜空を見る。  メガネをかけたその瞬間、視界を疑った。  息を、呑む。  本気でタイムリープしたかと思った。  このメガネをかけると、フォグブルー色の世界が煙をまいたかのようにしゅっと消え、月に照らされた夜空は鮮明で、夜空には滲んだ青色の部分もあって、小さな小さなきらきらとした光がある。  あれが。  夜空に星があることはもちろん知っていた。でも、人に聞いただけで見たことはなかった。  星はオーロラみたいにめったに見られるものじゃないと思っていたけど、今日はついているということなのか。  いや……いつもとは限らないけど、星はきっとそこにあったんだと思う。  僕はメガネを外してみる。  いつものフォグブルー色の世界。  もう一度メガネをかけてみると、  誰かが話していた夢物語の世界が分かる。  みんなが言う朝は明るく、  みんなが言う昼は朝より明るく、  そしてみんなが言う夜は暗い。  暗いの意味がようやく分かった気がした。  暗いってこんなに綺麗なんだ。  思わず口角が緩む。  メガネをかけたら  夢でもみているような  あたたかみのある色彩の世界が見えていた。  星も今なら夢物語じゃない。  メガネをかけた僕の視界。  これがきっと、みんなが見ている普通の現実なんだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加