この愛を選びたい

16/17
前へ
/17ページ
次へ
「大丈夫ですか?」 「いや、もうなにがなんだか……」 「そうですね。俺より大夢さんのほうが混乱して当然です」  それでもほっとひと息つく。常和が簡単な食事を作ってくれて、順番に風呂に入った。ゆっくり湯に浸かると、強張っていた身体の力がすうっと抜けていくようだった。 「大夢さん、ベッドがひとつしかないんですが……」 「あ、じゃあ俺はソファで寝ます」 「そうじゃなくて」  常和が頬をわずかに赤く染めて大夢を見つめた。 「ひとつしかないから、一緒に寝ましょう」  手をとられて頬が熱くなる。小さく頷いてふたりでベッドに入った。  緊張するけれど、不思議と落ちつく。布団の中で常和と大夢の体温が溶け合う。 「大夢さん……」  唇をなぞられ、ぞくりとなにかが背筋を駆けあがった。 「キスしていいですか?」 「……俺も、常和さんとキスしたいです」  なぜか常和が拗ねたような表情を見せるので首を傾げる。 「さっきは『常和』って呼んでくれたのに」 「あ……」 「呼んで、大夢さん」  もう一度唇をなぞられる。ヘイゼルの瞳が大夢をまっすぐ見つめ、心臓が暴れるが口を開いた。 「……常和」  唇が重なり、胸がさらに大きく高鳴った。このまま心臓が壊れてしまいそうだ。 「あのとき、あなたを守らないといけないと思いました」  唇を離した常和が囁く。「あのとき」を思い返すとまた身体が強張り、震えが蘇る。本当にもうだめだと思った。 「でも、自分を犠牲にしないで」 「それは俺が大夢さんに言いたい」  お互いさまか、と噴き出して笑う。笑いごとではないのだけれど、今は常和と笑いたい。 「おやすみなさい」 「うん。おやすみ、常和」  微笑み合って瞼をおろした。常和が生きている感動を噛みしめて、大きな手をそっと握った。  疲れているのに神経が昂ぶっていて眠れない。何度か小さく寝返りを打っていたら抱きしめられた。 「眠れませんか?」 「はい」 「俺もです」  もう一度キスをしてきつく抱き合う。常和が無事でよかった――心の底からそう思った。 「いつも俺の話をきちんと聞いてくれてありがとう」 「聞くしかできなかったし、結果はあんなだったけど」 「それでも俺にとって大夢さんは救いです。……なんですか?」  つい常和をじっと見てしまう。不満が少し漏れていたようで常和が首を傾げた。 「俺は『常和』って呼んでるのに、どうして『大夢さん』なの?」 「そんなことで拗ねてるんですか?」 「だって……」  淡く唇が触れ合い、「大夢」と囁かれた。互いの名を呼び合い、何度もキスをする。 「んっ……」  触れるだけだったキスが徐々に情熱を孕んでいく。常和の舌が口内に滑り込み、大夢の舌を絡めとった。 「ぁ……ふ、っ」  身体がどんどん熱くなっていく。思考が蕩けて常和にしがみつくと、少し強引に身体を離された。 「すみません。ちょっと頭を冷やしてきます」 「……?」 「いきなりそういうことは、……だめだと思うので」  ベッドから出ていこうとするのでその背に抱きつく。常和に心音が伝わってしまいそうなくらいに激しい拍動が全身に響いている。 「だめじゃない」  ぴくんと常和が震え、大夢を見つめる。その瞳に熱いものが宿っていて、見られているだけでどんどん身体が火照っていく。 「常和をもっと知りたい。常和にも、……もっと知ってもらいたい」  ベッドに寝かされ、常和が大夢に覆いかぶさった。熱く唇が重なり、口内を舐め尽くされる。上顎や歯列を舌でなぞられると腰に鈍い快感が灯った。身体を委ねようとしたら、「あ」と常和がなにかを思い出したように声をあげ、また身体を離す。 「大切なことを言ってなかった」 「大切なこと?」  なんだろう、と疑問符を浮かべると常和が苦笑した。 「あのとき言えなかった言葉を言ってもいい?」 「言えなかった言葉……?」 「好きです。ずっと大夢と一緒にいたい」  雨の中で大夢が遮った言葉だと思い至り、その優しさに胸が感動で熱くなった。それと同時に、互いの気持ちを伝え合うこともせずに求めてしまったことに恥ずかしくなった。 「俺も、常和とずっと一緒にいたい」  大夢を深く味わうキスにくらくらしながら拙く答える。こんなキスははじめてで、呼吸が苦しくなると常和が息継ぎをさせてくれた。  キスをしながら身体をまさぐられ、寝間着が乱される。肌に直接熱い手のひらが這うと、自分が思う以上に熱い吐息が漏れた。  舌を吸われてぞくぞくと背筋に快感が滑りあがる。熱い身体をもて余して常和にしがみついた。  唇へのキスが頬に移り、首に移った。寝間着を脱がされ、恥ずかしくて腕で顔を隠す。 「恥ずかしい?」  こくんと頷くと、その腕にキスをされた。それが「顔を見せて」という意味だとなぜかわかってしまい、熱い頬を隠す腕をどかした。 「あっ……」  常和の指が胸の突起に触れ、変な声が出て思わず口を手で押さえてしまう。その手にもキスをされ、おずおずと手をはずした。  両の胸の突起を指の腹でこねられ、腰が疼く。きゅっとつままれたらまた変な声が出てしまった。 「や……声が……」 「大丈夫。もっと聞かせて」 「あぅ、あ……」  突起がぷくりと芯を持ち、つんと尖る。そこを今度は舌でいじめられて視界が涙で滲んだ。鈍い快感がたしかにある。軽く歯を立てられ、肩が跳ねた。  身体中にキスをされ、すべてを知ろうと肌の上を手が滑る。大夢の存在をたしかめるように舌でなぞられるたびに身体が跳ねて喘ぎが零れた。常和も寝間着を脱ぎ、肌と肌を重ね合わせる。 「大夢……好きだ」 「あ……、あ」  欲情して張り詰めた昂ぶりを撫でられ、びくんと腰が震えた。すでにしとどに濡れたそれはすっかり形を変えていて、今にも弾けそうになっている。手のひらで先端から溢れるしずくをすくって撫でつけられ、強弱をつけて扱かれた。 「ああ、あ……っ、だめ、それ……っ」  先の窪みをくりっと開かれ、目の前がちかちかする。的確な手戯に酔う暇もなく、呆気なく昂ぶりが弾けた。 「はあ……っ、あ……っ」  常和の手が滑り、奥まったところに触れた。孔のまわりを指でなぞられ、思わず身体に力が入ってしまった。 「怖い? やめておこうか?」  目を見て問われ、ゆっくり首を横に振る。指先が中に忍び込み、違和感に眉をひそめると眉間にキスが落ちてきた。 「つらかったらすぐ言って」  指が奥を目指し、異物感に耐える。じっくりとほぐされ、窄まりが綻んだのか、指が増やされた。 「あ……ん……」  ちらりと常和の下腹部を見ると、熱い猛りが腹につきそうなくらいにそそり立っている。常和を受け入れたい一心で身体の力を抜いた。  指で内襞を撫でられ、ぞわりと言いようのない深い快感が湧きあがった。 「あっ……あっ!」 「ここ?」 「ああっ……、そこだめ……っ」  雷に打たれたような痺れに足が引き攣った。シーツを乱しながら喘ぐ大夢を、常和が熱い視線で捕まえる。その頬は上気していて、揺れる瞳には情欲が滲んでいる。 「またいく……、いっちゃう……っ」  シーツをきつく握りしめると、その手を大きな手で包まれた。ゆっくりと指が中から出ていき、昂ぶった身体の熱が燻る。  常和が大夢の足のあいだに身体を入れた。その呼吸は乱れていて、あまりの色っぽさに目が離せない。 「ごめん。我慢できない」 「うん……」  性急なキスにくらりと眩暈を覚える。蕾が押し開かれ、入ってくるものの熱さに息が詰まった。大夢をなだめるようにキスをしながらゆっくり腰を進める常和に身体を委ねる。内臓が拓かれるような感覚で常和を受け入れる。尻に常和の下腹部が触れ、すべておさまったことがわかった。 「少しこのままでいるから」  髪を撫でられ、その手をとって頬にあてる。 「常和……」 「なに?」 「俺、常和が好き。これからは、どんなときでも常和を選びたい」  うん、と表情を綻ばせる彼の頬に伝う汗を拭ってあげる。 「動いていいよ。大丈夫」 「痛かったらすぐ言って」  腰の動きに合わせて声が押し出される。先ほど指で撫でられた場所を擦られ、あられもない声が出た。 「ああっ、あ、あ……っ! 常和、常和……っ」 「大夢……っ」  快感の花が咲き、全身がそれに染まっていく。貫かれるたびに信じられないくらい甘ったるい声が次々零れた。濡れた音とベッドの軋む音が聴覚から大夢をいじめる。じくじくと昂ぶりが熱を主張して張り詰めた。 「常和、あっ……そこ、だめ、変になる……っ」 「ここ? わかった」 「ああっ……! だめ、だめ……っ、あっ、んっ……」  奥を突かれ、背が仰け反る。おかしくなりそうなほどの快感が大夢を呑み込み、思考を散らしていく。常和がせつなげに表情を歪める姿に、きゅんと窄まりが締まるのがわかった。  ゆっくり様子を見るようだった抽挿が徐々に激しくなっていく。乱れる呼吸を交わらせるように唇を重ね、舌の甘さを味わう。 「んあっ……あぅ、まって、だめ……いきそう……っ」 「うん……。俺も」  耳もとで熱く囁かれてせりあがってくる絶頂に高められていく。腰を掴まれ、続けて最奥を穿たれて再び白濁が噴き出した。身体が強張り、くたりと弛緩する。常和が奥を探って追いかけるように欲望を吐き出す。どくんと脈打つ熱を感じ、大夢は常和に満たされる幸福を感謝した。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加