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「さぁ温かいうちに、食べよう」
「すごい御馳走! いただきます!」
初めて食べるような、豪華食材を使った料理の数々。
スパイスの効いたステーキは、贅沢なレア。
年代物の酒は素晴らしく、芳醇な香りがした。
新鮮なフルーツに、上質のバターとクリームを使ったデザート。
どれも素晴らしく美味しい。
これだけの御馳走を用意してくれたのは、とても嬉しいがどれだけお金がかかっていることだろう。
さすがにいつも金の心配をするのは失礼だし、気にしないように食事を楽しむが……。
異国の料理も色々あって、シィーンは食べ慣れているようだった。
「これは、生の魚を酢でしめているんだ。これを付けて食べると美味い」
黒いタレは塩っぱいが、コクがあって複雑な味わいだ。
生魚? と恐る恐るだったが、マキラは目を輝かせる。
「美味しい……!」
「だろう?」
なんでも知っているシィーン。
シィーンへの謎は、深まるばかりだ。
でもそれは今考えることではないと、マキラは夕飯を楽しむ。
そして、伝えないといけない大事な話があった。
「あの、シィーン。実は……ハルドゥーン将軍が訪ねてきたのよ。そしてあの話は撤回すると言われたわ」
「それはよかった」
シィーンは優しく微笑む。
驚く様子もない。
それが当然かのような微笑みだ。
「姫の心変わりと聞いたけど……貴方のおかげなの……?」
「ふふ、心変わりと言われたんだろう? でもよかった。これで君が俺から離れることはないね」
「……えぇ、そうだわ……」
やはり単なる姫の心変わり?
それが偶然に起きた……?
『貴方は一体何者なの?』という言葉が喉元まで出てきそうになる。
でもそれを言ってしまえば、自分にも同じ質問が返ってくるだろう。
それが、怖い。
適当な嘘で誤魔化せない自分が、嫌になるけれど……亡国の皆を否定する嘘はつきたくない。
何より、愛する男に嘘をついて愛してもらって……許される?
そんな自分にはなりたくない。
「マキラ」
抱き寄せられ、優しく頬に口づけされる。
今は、そんな事は考えたくない。
この初めての、心躍る恋に、愛に溺れていたい……壮絶な過去も、亡国王女だという事も今は考えたくない……。
「俺は全てに勝ってきた。でも今、一番手に入れたいのは……君だ」
「シィーン……私はもう貴方のものよ」
「まだ……もっとだ。君の全てがほしい。これからの君の未来も」
「私の未来も……?」
「そうだよ」
シィーンがマキラの手に、真っ赤なリングケースを渡す。
「これは……」
心臓がドキリとする。
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