「酔いました」1

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「酔いました」1

「東雲さんって飲めないんですか?」  ある日、柚木君は唐突に言った。柚木君は飲んだり飲まなかったり。あたしは居酒屋に行っても飲まない。あんまり気にする人はいないんだけど、流石に二人で何度も食事をしていたら気になったようだ。 「飲めなくはないんだけど」  うーん。と、烏龍茶を持って言った。 「弱いんですか?」 「そんな事ないと思う」  限界チャレンジしたことはないけど多分。 「好きじゃない?」 「うーん。凄く美味しいとは思わないかな。どうしようもなく不味いとも思わないけど」 「興味もない?」 「ある」  実はある。それに、ちょっと飲みたい時もある。そう思いながら言ったその言葉に柚木君は目を丸くした。 「じゃあ飲めばいいじゃないですか」 「…うーーーん…」  そうなんだけどー…。と、唸ったあたしの思考に勘付いたらしい。ちょっとだけ顔を近付けて心持ち小さな声で言う。 「もしかして酒で危ない目にあいました?」  えーっと…。と、目を逸らしてしまった。 「そんな事ないんだけど」 「自衛?」 「まぁ…そうかな」  本当に失敗をしたり危ない目にあったことはない。でも酔っ払いの友達や知り合いの勢いであっちこっち連れまわされたり介抱したりしている内に、自分は飲まない方が良いなという結論に達した。それをどういう意味で受け取ったのか。 「じゃあ飲まない方が良いかもしれませんね」  と柚木君は呟く。こっちはこっちでモテモテ彼女の心配が尽きないので危なっかしい事はしないでいてくれるに越したことはない。 「うん」 「でも、興味あるなら飲んでみれば良いんじゃないですか? 俺と二人の時なら大丈夫でしょ?」  そう言われて気が付いた。 「あ…そ、そうだねー! じゃあ今日はちょっと飲んじゃおうかな。あたし本当は、カルアミルク好きなんだ。あと、こういう限定品も実は気にはなっててー!!」  そう言ってわくわくとメニューを見たあたしを見て柚木君は笑った。  さて。  カルアミルクって結構強い酒なんだよなぁー。と、気付いたのはとっくに手遅れになった頃だった。二杯くらいしか飲んでいない筈だけどしっかり酔っている模様。ふにゃふにゃと笑う頬っぺたの赤い東雲に、そろそろ終電だなと声をかけた。 「東雲さん。そろそろ行かないとヤバいですよ」 「はぁい」  相変わらず素直だ。酔っても素直だ。そう思いながら立たせると、意外にも足腰はしっかりしている様子。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫!」  ふん。と、頷く彼女と二人で支払いをして店を出た。真っ直ぐ歩けているし、本当に酒には弱くないようだ。酔ってはいるみたいだけど。 「一人で帰れます?」  帰れないと言われたら自分も帰れなくなるのだが聞かざるを得ない。 「大丈夫!」  と、東雲は親指をびしっと立てた。そう? なら良いか。と、この時は思ってた。 「じゃあ、帰り気を付けて」  少し余裕を持って駅に着けた。良かった良かった。これなら慌ててすっ転ぶこともないだろう。そう思いながら隣の彼女に言った。東雲の乗る電車の改札前。ここでお別れだ。 「うん。柚木君も気を付けてね」  あっさりそう言って東雲は離れかける。が、思い出したように戻ってきて自分の袖を引っ張った。内緒話みたいなので耳を近付けると東雲はこそこそとこんな事を言う。 「柚木君。ありがとう。お酒、凄く美味しかった」  まだ話はあるみたいだったけれど、思わず顔を向けたら近くに凄く嬉しそうな東雲の笑顔が見える。 「二人の時にまた飲ませてね。じゃあね」  と、あっさり背を向けた彼女の腕を思わず掴んだ。ん? と振り返った東雲の頬は赤い。やっぱり。 「東雲さん。酔ってますよね?」 「酔ってないよ。あ、酔ってはいるかもしれないけどしっかりしてるから大丈夫」  ふにゃ。と笑う東雲を見て思う。そうかもしれないけど。確かに酔ってなくても素直にああいう事言う人だけど。でも。  混乱しながら変なことを考えた。本当は酔ってる癖に、何でこんなにしっかりしてるんだ? そもそも飲んだら彼氏に甘えても良くない? いや、この人そういう事はしないんだよな。これもモテ過ぎた故の自己防衛なんだろうか。でも俺に自衛しなくて良くない? まぁ、本当に大丈夫なだけかもしれないけれど。それに改めて考えてみると、本当だろうと演技だろうと酔っ払ってしなだれかかってこられたらどうだろう。それはそれで嫌だ。ましてや初めて飲んだところを見せられて、彼女の周囲の状況も分かっていてそんな事をされたらもっとしっかりしてくれと嫌悪してしまったかもしれない。だからこれで良いんだけど…。  だけどー…。  つまり彼女の態度は好ましく、だけど自分は心配で。大丈夫だろうけど酔っている彼女は凄く可愛い。甘えて欲しいと思ってしまうほど。  くそー。この人本当に人たらしだな。うん。知ってた。 「東雲さん。どっかに泊まりましょ」 「はえ?」 「俺、もう帰るの面倒い。付き合って」 「え? え? え? 酔っちゃったの? 大丈夫?」  何でそっちが心配してるんですかと思ったけれど、そんなところも可愛い。 「酔った。うん。酔いました。だから行きましょ」 「え、えー? 本当に大丈夫ー?」  だからどう見てもそっちの方が(以下略)と思ったけれど面白かったから何も言わずに彼女の手を引いた。

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