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「あともう少しで、教会に通じる山道の入り口があるはずです」
クレアがそう言うと、ジャンと呼ばれた男は首を傾げた。
「……さっきから同じ場所を歩いているような気がするな」
「それもそうですね……。何故でしょう」
二人はピタリと歩くのを止めて、周囲を見渡した。
「クレア、少し下がってくれ」
ジャンはクレアにそう命じると、胸の前で十字を切って、こう唱え始めた。
『主よ、わたしの力よ、わたしはあなたを慕う。
主はわたしの岩、砦、逃れ場
わたしの神、大岩、避けどころ
わたしの盾、救いの角、砦の塔。
ほむべき方、主をわたしは呼び求め
敵から救われる……』
ジャンは一瞬唱えるのをやめて、辺りを見渡した。しかし何も起こらない。
続きを唱えようと彼が口を開いたときだった。雷鳴が轟き、地響きがして地面が小刻みに揺れた。急に強くなった雨が、二人の視界を遮る。
「神父様! 見えにくいですが、あそこに道が!!」
クレアが指を差す。
二人の前に、細く長い山道が現れた。その先には黒い霧に包まれた教会らしき建物が見える。
「——行こうか」
二人は同時に山道へ足を踏み入れた。
これから何が起こるのか知らずに。
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