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いいーこ、に、してた?
あっと小さく叫んで彼が顔をあげた。
「いま動いたよね?」
私が笑ったまま首を横に振ると、彼は肩を落とす。
Why you don’t talking with dad?
そう言いながらも、敬虔にさえ見えるしぐさでそっと私のお腹にくちびるを寄せた。
開けたままの窓から光が差し込んで、ふいに永遠を誓った日を思い出す。
生き方も住んでいた場所もことばもちがうひと。
ただ好きという心だけでいっしょになったひと。
私が彼の国の言葉を話すと、彼はいつも少し笑う。面白がってるようでもあり、嬉しそうでもある。
彼が日本語を話す努力をはじめたことで、その理由がわかってきた。
「た、だーいまBaby,Have you been good girl? いいーこに、してた、かな?」
英語じゃない、生まれたときから使っている特別な言葉。そこまで歩み寄ろうとしてくれることが嬉しいんだ。
生き方も住んでいた場所もことばも違うから、二人で一緒に手を伸ばさないと届かないから。
このひとと、ここで、生きていく。
おたがいの言葉を手さぐりで引き寄せながら。
おかえり。
答えるようにボウンッとお腹の奥で命が回った。
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