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ある日の金曜日、週末に来る台風の為にふらっと寄った駅前のスーパーでは、多くの人々で賑わっていた。
やはり簡単に、食べられる惣菜パンやカップ麺などはもう品薄になっている。
仕方なく、いつもの食材と、もうすぐ無くなりそうな、お米を手に持つ。一人暮らしで、いくらか慣れたとはいえ、いつもの通りお米はネットスーパーにしておけば良かったと思いながら、レジのお嬢さんにお金を払うと――。
「ありがとうございました〜。これ福引き券です頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
親切なレジのお嬢さん、今日の私はラッキーかもしれない。
福引き場は、入り口近くにあって元気なはっぴを着た定員さんが、元気に福引きを宣伝をしている。
「お願いします。」
私が福引き券を差し出すと、彼は長机の上で慎重に数を数える。
「はい、福引き券10枚で、1回福引きを回せるますよ!頑張ってくださいね」
と、言ってくれる。私がガラガラの前に立ってレバーを回すと、レバー思うより軽くて思わずボールの出口が下に来た時、少しだけゆっくりと回す。どうやら、ボールは、上手く出たようだけれども……結果のほどは定かじゃなかった。
「おめでとうございます! 一等 『秘湯葉山』のお一人様宿泊券でーす」
定員の彼は、声高らかにそう言った。鐘もガランガランと景気良く鳴らしてくれる。一等を引いた、私は隣の机へスライドする事になり、そこで名前の欄に、山川 美沙とそして住所を紙に記入する。どうやらこの券を使えるのは私のみらしい。思いのほか使い道が偏っていた。秋の内に、土日の予約はとれるだろうか? 冬山にはちょっと行きたくないな。
なんて事を考えていると――。
「すみません、苗字だけボードに書きますね。決まりなんで」と、さっきの彼の上司ぽい人が言う。
山川なんてこの辺には無い苗字だし、知り合いが見たら困るな……。そう思ったが、解放されると米を片手にるんるんな気分で帰った。
でも、家でよく確認したら、お一人様分のみで……普通ペア券なのに、家族連れが当たってたら気まずい事になってたんじゃないかしら……?調べてみると、ホームぺージも載ってない所で、不安だったが……SNSのブログに山の最高な隠れ家なんて書いてあって夢心地で電話をする。宿泊券の事を話し確認すると、来月の週末はいつでも予約が取れるって事で、仕事の忙しくない第2金曜日に予約をいれる。
(はぁ~紅葉の見ごろの時期だろう、夢みたい)
☆★☆★☆
とうとう念願の有給の日の第2金曜日、朝はやはりいつもより早く起きた。軽めに朝食をとり、ガス、電気、鍵を確認し、素敵な電車の旅へ向かう。しかし検討があまく見事通勤列車に飛び乗ってしまった、2駅目からどんどん学生さんや会社員の人々と一体になって都心の駅まで着く。いつもは逆方向へ向かう電車に、乗っていたので痛恨のミス。
それでも、都心の駅を過ぎれはそこまで込むことはなく、乗り換え電車に乗り変える事が出来た。次の赤い列車は、紅葉の様でやっと気分が旅行気分戻った頃に、目的地の温泉街。
駅の階段から降りると観光地。
「温泉まんじゅう」いかがですか?美味しいですよ~。
「この後どうする? 参拝に行って有名な長い階段へのぼる?」と話している女の子たちの声を聞きながら、ゆっくり辺りを見回す。
そこには、バスの時刻表があった。そうである……『秘湯』や『最高の隠れ家』は、電車では行けなかった。やはりパソコンで調べてきた通り、バスは1日に3本、9時、13時、16時、次は13時か……。
その後は、温泉街で売っているものをおまんじゅう買い食いしたり、抹茶アイス買い食いした、足湯に入ったり、有名な階段を登ったりたもした。
どこから見ても紅葉がきれいで、じゃがバタも買い食いをしたりした。
もうすぐ12時45分、バス停の前に座っても十分いい時間になって来た。待って5分もしない内にバスは来て、13時きっかりにバスは出る。
バスから見る紅葉もきれいで、携帯のカメラを取り出し風景を写真におさめていたら……ふと画面を見たら通信圏外になっていた。そのままバスで眠り、終点で起こされた。そこで降りて少し歩くタクシー会社で、「予約した、山川です」と告げると……。
「貴方が山川さん? 随分遠かったでしょう? もう30分もあれば着くからね」と、おじさんは優しく現実を教えてくれる。
運転手さんは、行きなれた道の様でスイスイと山道を進んで行く。正直、ここまでくねくねした道は辛い。私の三半規管と胃がもうもたない! ってところで、『秘湯葉山』にたどり着いた。タクシーの運転手さんにお礼をいい日曜日の予約時間の確認をすると、彼は帰って行った。
『秘湯葉山』に着くと受付カウンターの横におばあちゃんがいて、熱心に目の前の儚い感じの女性の絵をみていた。
「すみませ――ん」と声をかけると。
「あらあらごめんなさいね。お客様かしら? 遠かったでしょう?」
少し腰の曲がった、上品なおばあちゃんはそう言った。目の横のわらい皺が、いい歳のとりかたをしたんだろうなっと私に思わせる。
「はいよろしくお願いします、距離は、本当に遠かったですね……」
「そうでしょう、そうでしょう。でも、皆さん何度もここへ来てくれて、おばあちゃんは、うれしいのよ。うふふ」と、可愛く笑う。
「さぁ、荷物をお持ちしましょうね」
「大丈夫です! 力持ちなので!」
と、無駄にわたしは、旅行鞄を上げ下げする、おばちゃんには持たせられないでしょう……。
「本当に、今の子は優しいわねぇ、じゃ……お部屋に案内するわね」そう言うとおばちゃんは、足取りも軽く歩く。2階に上がり、一番奥の部屋『紅葉の間』に通された、眺めが絶景で、紅葉した山や山の間に微かに海が見える。
「わぁ……ぁ……」思わず感嘆がこもれるばかりである。
「ふふ、ここが一番いい部屋だから早く埋まってしまうけれど、なぜか今週末だけは暇で……でも、お客さんの来てくれてそんなに喜んでくれてよかったわ」
「本当にここはいいところなので、本当に来てよかったです」
そう言うとおばあちゃんは、まぁまぁと笑って帰って行った。
畳の部屋には、あの謎のスペースこと広縁、床の間に、トイレとお風呂、そしてお茶とお茶請け。こじんまりとして落ち着きがある親しみのある佇まい。
そして今回の目玉は旅館から歩いて行ける秘湯の温泉に、日が高い内に行きたいと早々に用意をして、階段を降りると丁度、紺の着物を着た、ベテランの風格のある仲居さん忙しそうにタオルを持って歩いて来た。
「あの……歩いて行ける温泉があると聞いたのですが、どうやっていけばいいでしょうか?」
「玄関の前の道を、山に登って行くと見えてきますよ。玄関のある部屋の名前と同じ履物をお使いください」
「ありがとうございます」
「では、私はこれでと」頭を下げると彼女は旅館の奥へと足早にむかって行ってしまう。
玄関で紅葉とある履物に履き。引き戸の玄関を開けた先は、紅葉した葉っぱがひらひらと舞う秋の国につながっていた。
赤や黄色の紅葉に埋もれた舗装された道は、やがて木が横たわった階段へと続いた。柔らかな土と苔が顔を覗かせ、落ち葉で色ずく階段。昔の神話の世界へと登り進むとそこには、小屋と着物を着た男女の姿が見える。黄色地に色とりどりの落ち葉の書かれた着物を着た女性は、儚げで、男性に寄り添う様に歩いてくる。深い紺の着物を着て、引き締まった顔に斜めの傷が頬にある男性は触れるか触れないかの位置で彼女を守るように歩いている。
「大丈夫かい?、ことえさん」
ことえと言う女性を気遣う男性は、とても彼女を大切にしている事がわかる。そこで少し日常を、特に電話越しの母の声を思い出したが、あんな素敵な男性は世の中にそう居るものではないと首を振り、日常を振り払う。
しかしあの髪の長い女性は、どこかで会った気がするが、それはどこわからない。温泉に入る前、すこしもやもやする気持ちになったが、温泉に入れば忘れてしまう。
脱衣所は、少し小さいく、いくつかロッカーがあるのみ、着替えて、腕に2つ目の鍵のゴムを通す。温泉の出入り口には、連絡用の電話とドライヤが1つあった。
温泉に入ると、周りを高い竹に囲われている。しかし一か所だけ大きく竹がくり貫かれ、そこからは数々の岩が切り立った地形と、その向こうに海がガラス越しに見える。岩に当たる白い波も、遠くに見える小さな船も、そして遥か遠くの水平線まで……。
体や髪を洗って、温泉に浸かっている間、ただその風景をのんびり見ていた。
風は潮風を運んで、温泉のお湯が筒の流れる音が聞こえる。山の中でこんな風景に出会えるとは思わなかった。ただ時はゆっくり流れてきた。
そろそろ湯あたりしそうな時間になり、温泉を出ると、また世界は、紅葉の世界。すべてが原始の海の世界からみやびの世界に舞い戻る。
階段を下りて進むと、落ち葉の踏む音がサクザクと響く。まわりにはどこまでも木が植わっている。私はどこまでもいけるが、人は文明の中からあまり出る事はない。山には恐れがあり、私はそのギリギリを今、歩いて旅館に帰った。
人間の営みの空間に入るとまたおばあちゃんが、私を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、山川様、離れの温泉はどうでしたか?」
「とっても良かったです。行きに男女の方とすれ違いましたが、温泉は独り占めできました」
「あらあら、おかしいわねぇ……今日は、他のお客さんは、まだ来てないのよ」
そう言ったおばあちゃんの後ろに、古めかしいが、小さく女性の絵があった。昨日おばさちゃんはとても一生懸命その絵を見ていたが、思い起こせばあの時の女性は、この絵の女性に似ている。私は、絵を指さし――。
「この絵の女性だと思います」そう言うと、おばあちゃんは、「͡琴絵ちゃん……」と言うので
「そうです! 男性はそう言ってました。彼女と一緒にいた男性は、頬に耳側から鼻にかけて上から下に傷がありした。 女性はお孫さんやお知り合いですか?」
「そうねぇ……ちょっとお時間いいかしら?」
そう言うおばあちゃんに「はい」と返事をすると旅館の奥へと、入りわたり廊下を進んで行く。そこから見える庭は、旅館の様に立派ではないけれど、小さいお花がいくつもあじさいの様に集まったお花がかわいらしく、緑の葉がきれいにきり揃えられたつつじなどが丁度良い塩梅に植えられている。優しいさを感じるお庭だった。
おばちゃんが案内した、家には、土間がありそこで靴を脱いで上がると、台所にこたつが置かれている。私達は、2階へあがると、1つの部屋の前に立つ。飾り窓のあるその部屋をおばちゃんがゆっくりと開ける。扉の前にはアンティーク調の机がと椅子が置かれ、その目の前には、やはり山に合間から海がかすかに見えていた。
「この家の一番いい部屋がここなの……けれど、この部屋を使っていた私の姉、琴絵は、親の決めた家に嫁ぐ日の前日どこかへ消えてしまったの、それから誰もこの部屋を使う人は居ないわ」
そう言うと、おばちゃんは懐かしむ様に、机の上を撫でる。
机の上には、琴絵ちゃんの絵と鹿の絵が飾らていた。
「この絵は?」
「あぁ、その絵? 旅館に泊まってらした画家の方がいてよく琴絵ちゃんを描いていたのよ。だから、最初はそのお客様と駆け落ちしたって話も出たくらい。でも、琴絵ちゃんが居なくなった話を聞いたお客様の様子からそれないだろうって話になったの。きっと彼も私達と同じように、琴絵ちゃんの話を聞いた途端、心穏やかではいられなかったんでしょうね……」
「いえ、違うんです……こちらの鹿、頬に傷が……。一緒にいた男性も頬に同じ様な傷が……」
「この子は、琴絵ちゃんよく懐いていた鹿なの。この傷は琴絵ちゃんが、離れの温泉から見える海の岩場に、私達と魚釣りをに行く途中に、岩場で足を滑らせた琴絵ちゃんこの鹿が助けた時に出来たものなのでも……そんな……」
彼女は、慌てた様にそう言うと長い間、彼女の姉と姉を助けた鹿の絵を見ていた。私は彼女達美しい姉妹に思いをはせる。きっと素敵な絵物語の様で、名も知らない画家の気持ちに共感さえ覚えていた。その時どこかで、時を告げる時計の鐘が鳴り、おばあちゃんを現実へ連れ戻した。
「あらあら、私たら山川様をこんなにお待たせしてしまって、ごめんなさいね」
そう言うと、彼女の姉とその隣にある絵に視線を一度落としたのちに、振り返り私の方を向いてにこりと笑う。
「いえいえ、素敵なものを見せていただきました」
「ふうふふ、自慢の姉だったの、そんな風に言われてうれしいわ。では、戻ってご飯の用意をいたしましょうね」
そう言っておばあちゃんは、また足取り軽く進む。旅館につくと、仲居さんが「女将さん、お客様とお出かけだったんですね。すみません調理場で呼んでいたので、行って貰えないでしょうか? お客様すみません、御用がまだでしたら私が承ります」
「お客様には、おばちゃんの話に付き合っていただいたのよ。うふふ 山川様、貴重なお話ありがとうございました」
と言っておばあちゃんは去って行った。
「おやまぁ、女将さんうれしそう、女将さんは、娘さんと一緒に暮らす事になって、冬にはここを離れる事になったから……最近浮かない顔だったのに……お客様ありがとうございました」
仲居さんは、そう言うと深々と頭をさげた。
「では、この旅館は……」
「この旅館は、女将さんが、長年働いてくれたお礼と言って、私と板前の夫に譲っていただいたんです。これから少しずつでも、お金をお返し出来ればと思っているんですよ……ってこんな事お客様に言ってしまって、あらやだ私たら」
「そうなんですね、おめでとうございます。またいつか来ますね」
「ありがとうございます。ぜひ、では、仕事がありますので失礼します」
そう言って、彼女は仕事場へ戻った。
その後、旅館の温泉はサウナや、うたせ湯、普通の温泉とあって、こんな遠い旅館が人気なのもうなずける。ほど、ゆったりと言うか、世話しない時間を過ごした。お布団が畳まれ置かれていた。
その晩のご馳走は、山の幸の猪肉の牡丹鍋に、刺身の盛り合わせまでついて、凄いご馳走だった。
「この辺で、とれた素材を使っているんですよ」
そう言って、仲居さんは笑顔で言う。
「鹿も食べたりするんですか?」
おばあちゃんとの話を、思い出し少し気になって聞いてみた。
「鹿は、この辺では神様だから食べないんですよ。電車で降りた温泉街の方では、そんな風習はないので、そちらなら料理店もございますよ」
と教えてくれた。じゃ……あの絵の鹿は、殺される事はない事に少し安心をする。
牡丹鍋は、味噌の味わい深くとても美味しく、刺身はどれも生きが良くてプリプリだった。でも、もう少しだけ柔らかいといいなぁ……と、個人的に思った。
明日の昼前には旅館を立つので、7時にはもう入れる温泉の為に、早く寝る事にした。寝る前にカーテンを開けると、たくさんの星の中にきいろい月が浮かんでいる。山の向こうの海は月明りでは、見る事はかなわなけれど、風の中に少しまぎれている潮風で海の姿を思い浮かべる事は出来る。微かに鳴く鈴虫、自然のすべてがここにあるような感違いをしてしまいそう。
そんな風景の中におばあちゃんのお姉さんは居るのだろうか? あの男性の姿をしていた、鹿とともに……。
秋の風は、少し肌寒く、ゆっくり窓とカーテンを閉め、私は床についた。そしてすぐに闇の中に落ちていく……。
☆★☆★☆
携帯のベルの音が鳴り、目を開けると朝だった。う――ん、と体を伸ばす。
……さっき寝なかった? まぁ……いろいろ移動して疲れてぐっすり寝たのだろう。温泉の準備をして、下に行くと仲居さんと会う。
「「おはようございます」」
挨拶の後に、離れの温泉に行くことを伝えると、「朝ごはんは帰って来た頃に合わせてお作りましすね。いってらっしゃいませ」
仲居さんの声に見送られ、山道を行くと昨日とは違う、優しい陽射しや、世話しない鳥の声にもする。誰とも会わず温泉に入ると、再びゆったりした時間を過ごす。
そこから見える海の上、水平線の近くには、小さい子船がいくつか海の上に留まっているのが見える。 あそこで、取れた魚の何匹かは、今日の晩御飯として旅館でだされるのだろうか?
そんな事を思いながら温泉に浸かっていると、すぐにお腹が鳴りだし、少し慌てて旅館へ帰った。
「おかえりなさいませ」玄関へ帰るとおばあちゃん受付カウンターに座って居た。
「山川様、すぐ朝食の用意をしますね」 そう言うと調理場の方へと消えていく。
仲居さんの持って来た朝食は、焼き魚、白みそのお味噌汁、ごはん、そして少しの量ずつ入ったさといもの煮っころがしなどの煮物。
やはりどれも美味しい、そう言えば、白みそは麦が入ってたので麦の味噌汁なのかもしれない。豆腐に、白菜やにんじんなど野菜もふんだんに入っている。
女性に、よっては少し量が多いのかもしれない。しかし私にとっては丁度いい。むしろこれがいい量だった。
それからの時間は、旅館の周りを散策したり、受付カウンターの隣でおみあげを買っていたらすぐに時間が過ぎてしまう。
部屋に戻って荷物の用意をして、部屋をでる。受付カウンターのカウンターには、仲居さんがしかおらず、少し寂しい思いで、料金の精算をすませる。
「おはようございます」
「おはようございます、今日もよろしくお願いします」と、昨日のタクシーのおじさんと挨拶をしてお荷物を積み込んでもらっていると、おばあちゃんがやって来た。
「吉村さん待って」おばちゃんは手に何やら小袋を持っているようだ。
「おばあちゃん今日も元気でいいねぇ――、その調子ならもう一年出来るんじゃないか?」
「もう何、言っているのせっかく踏ん切りついたところなのに!」おばあちゃんは、笑いながらそう言うとこちらを見て。
「山川様、昨日はいろいろとありがとうございました。あの後、おばあちゃんも山へ久しぶりに登ってみたけれど、誰も見つけられなかったわ……でも、あけびを見つけたの、でも、今どきの若い人は食べないだろうから、板前さんにジャムにして貰ったの良かったら食べてね」
そう言ってかわいい袋に入ったあけびのジャムを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こんな事しか出来ないから、おばあちゃんは秋で引退だけど、この旅館はまだまだ続きからまた是非来てね」
「はい、来ます」少し泣きそうになるのをこらえそう私は、言った。
「そしてこれは、吉村さんの分、家で奥様と食べてね」
「おばあちゃんの料理のファンだから嫁も喜ぶよ」そう言って、満面の笑みでおばあちゃんから、袋を吉村さんは受け取っていた。もうこれで、ここともおばあちゃんともお別れ、少しの時間だったのに懐かしく辺りを見回す。
「おばあちゃん……」
「はいはい、なあに?」おばあちゃんは、私の指さそうとしている先を見た。
「琴絵ちゃん……」私達の見ているすぐ近くに、おばあちゃんの姉と頬に傷のある鹿が居た。でも、おばちゃんが泣きながら口を押えながら座り込むの見届けたると、ふたりとも森へと帰って行った。
「おばあちゃん怪我してない? どうしたの?」吉村さんが、おばちゃんのまわりに飛んでくる。私は「仲居さんを呼んできます」と言って旅館へ舞い戻り仲居さんを連れて来ると。
「本当にすべっただけなの、大丈夫よ、あらあら、すみちゃんまで来てもらっちゃってありがとうね。みんな」
「じゃ――すみちゃん、山川様と吉村さんをお見送りしましょうかねぇ」
そうして私はこの旅館を後にした。
そしてこの日記を書いている。思い起こせば導かれる様に、あの旅館へ行って、偶然の中を過ごしたように思う。
この旅の思い出は、私にとってかけがえのないものになるだろう。そしてこの旅で出会った誰もが幸せになる事を願う。
おわり
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