コロッケパン

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 夕食を片手にアパートに帰る。ただいまなんて言葉を言わなくなってずいぶん経つから開錠の音が挨拶代わりだ。  狭いダイニングを占拠するテーブル炬燵のスイッチを入れ、ビニール袋をその上に置く。  コロッケパンが転がり出た。  どうせすぐ食べるのだからパンはそのまま置いておき、冷蔵庫を開ける。一リットルペットボトルの緑茶に触れた指先が痛い。我慢してペットボトルを握り、精一杯背筋を伸ばして炬燵に戻る。  部屋の奥の扉は見ない。僕一人なんだからここだけ電気がついていればいい。それで充分大丈夫だ。  焼きたてのコロッケパンはまだ温かかった。緑茶の蓋を開ける。鼻先に近づけるとソースと油の匂いが漂うそれを食いちぎり緑茶で流し込む。  一リットルの重さを支える片手が震えた。 「炭水化物を炭水化物で挟むなんて変だろ」  声は独りの部屋にやけに響いた。返答はない。この美味しさが分からないなんて可哀想と、芝居がかって言った僕の恋人は、もういない。  炬燵はまだ暖まらないけれど、独りの部屋は寒いけれど、いつも通りにしていれば大丈夫だから。  ごみ箱にはコロッケパンのレシートが詰まっている。
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