ごめんなさいしか言えない奴隷

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人を呪わば穴二つ、なんて言葉は古今東西にあるはずだ。 だから人を呪い殺してほしいという依頼を受けるときは、注意が必要だ。 依頼者、術者どちらにも、呪いが返って来てしまう。それを避けるためには、生贄を差し出せばいい。 呪術師のアルは、とある皇族から依頼を受けた。自分の兄を呪い殺してほしいというその依頼者は、とても涼しい顔をしていた。 親族を殺す依頼をするなんてイカれている、とアルは思ったが、深入りしたくないので、すんなりと引き受けた。何より報酬が相当良かったのだ。 皇族の身分ともなると、保護魔法がかけられているはずだ。それを乗り越えて殺すだから、相当な強い呪いが必要だ。それには生贄が必要である。 兎や鹿なんかの動物なんかでは無理だ。 そう、人間の生贄が必要だ。 アルは、街に生贄にするための人間を探しに向かった。 その辺の人間を誘拐して大騒ぎになるのは困る。 金はかかるが、奴隷でも買うのが安全だろう、とアルは暗い道の外れに入っていった。 そこには、知る人ぞ知る奴隷店がある。 「安い奴隷が欲しい」 アルはケチであった。辛気臭い店主にアルが言うと、店主はギロリと睨みながら頷いた。 「女か男か。動ける奴か、動けなくてもいいのか」 「生きてさえいればなんでもいい」 そうアルが言うと、店主は店の隅の方を指さした。 「じゃあ、あれだ。女。年はわからん。かなり弱ってるがとりあえず生きてはいる」 アルは指差す方へ目をやった。 そこには、首輪をされたかなり細い人間が寝転んでいた。髪はボサボサだし汚い。臭いのか蝿が止まっている。 「値段は」 「これくらいだ」 かなりの破格。かなり質は悪そうだが、どうせ生贄にしてしまうのだ。いい買い物だ。 「分かった。そいつを買う」 そう言って、アルはその小汚い奴隷を購入した。奴隷は自力で歩けないようだったので、アルはそれを小脇に抱えて行くしかなかった。
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