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それからアルの行動は早かった。
すぐに家を破壊し、追跡防止の呪術をかけ、変装をして、転送の術で遠くの街へ逃げていった。
「奴隷を連れて逃げる時は、豚の丸焼きを持ってたから問題なく逃げれたけど。やっぱり生贄がねえと跳ね返るんだよなー。つーか丸焼きでも生贄イケるんだな」
ドブにハマってドロドロになった靴を見ながら、アルはぶつくさ言う。
2人分の生贄無しの転送術のせいで、靴はドロドロで森の中を歩く羽目になっていた。
「あーあ、腹減った。皇室に目をつけられたからしばらく隠れながらの生活だ。面倒くせえ。早く住処も見つけねえとだめだしなぁ……あ、あれ?奴隷、どこいった?」
ふと気づくと、さっきまで近くにいた奴隷がいない。
獣にでも食べられたかとアルか焦ったときだった。
「ただいま!」
奴隷が、何やら木の実を抱えて戻って来た。
そして、自慢げにその木の実をアルに差し出した。
「ただいま!」
「お前どこ行ってた!」
「ただいま」
「いや、分かった分かった」
アルは奴隷から木の実を受け取った。食べ物を探しに行ってきてくれたのは分かった。
「おう、ありがとうな。でも勝手にどっか行くんじゃねえよ」
「ただいま……」
「いや、そこはごめんなさいだぞ」
アルは顔をしかめる。
「皮肉なもんだな。帰る場所が無くなったとたんに『ただいま』しか言わなくなるんだからな」
「……あー……」
「お前ももう少し言葉覚えようぜ。飯くれとか、クソ野郎、とか、うるせぇ、とか」
「飯くれ」
「ああ、いいじゃねえか」
アルは上機嫌に笑う。
「そんくらい偉そうにしてな。さ、これから忙しいぞ、ただいま言う場所探して、飯食うんだからな。二人で」
「飯くれ!!」
「うるせえな、その木の実食ってろ!」
アルは楽しそうに笑いながら奴隷を連れて泥だらけの靴で歩いていく。
逃亡生活の始まりだが不思議と怖くは無かった。
「ま、いざとなったら奴隷を生贄に、デカい呪術で攻撃できるしな」
そう口では言いながらも、アルは奴隷に優しく微笑むのだった。
End
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