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「ああ臭い!鼻が曲がりそうじゃねえか!」
アルは家に帰るなり、奴隷を浴槽に放り込んだ。
「どうせ生贄にするからどうでもいいとはいえ、こんな臭えもん置いておいたら家中に臭いが移る!」
そう言って、ボロ布をまとったままの奴隷に浴槽のお湯をかけた。
「その汚え布は捨てるから早く脱げ。んで、ちゃんと石鹸で髪から足まで全部洗え!洗い終わるまで出てくるんじゃねえぞ!」
「せっけん……」
「あ?これだよ、この塊。お湯で濡らして泡が出てきたらそれで洗え」
「あわ……」
「は?泡もわかんねえのかよ。面倒くせえ」
アルはイライラしながらも、臭いに耐えられず、石鹸を泡立てて乱暴に奴隷に塗りたくってやった。
ボロ布はつけたままだったが、面倒だったのでそのまま洗ってしまう。
そして、お湯を頭からぶっかけてやる。
「ふん、まあまあじゃねえか」
アルは満足げに頷いた。
少し汚れの落ちた奴隷はさっきよりましな姿になっていた。髪はボサボサのままだったが、少なくとも蝿が止まったりはしないだろう。
「ごめんなさい」
「は?」
奴隷に急に謝られて、アルはぽかんとした。
「自分で洗えなかったから謝ってんのか?別に謝らなくていい」
「ごめんなさい」
奴隷は繰り返す。アルは理由がわからず、でも別にどうでも良かったのでそのまま放置することにした。
臭く無くなったので、アルは奴隷を自分の部屋に連れていく。
早速生贄を使って呪術を開始しようと、奴隷を魔法陣の真ん中に置く。
奴隷は大人しく、魔法陣の真ん中でコロンと寝転んでいる。起き上がる体力が無いのだろう。
拘束する手間が省けていいな、とアルは思いながら、魔法書を手に呪術を開始した。
「では、悪魔の名において汝の身を捧げ……」
ぐー
巨大な音が鳴った。
「……腹の音か」
アルがたずねると、奴隷は弱々しく頷いた。
「余計な音を立てるな。デカい呪いは正確な呪詞が必要なんだぞ。間違いがあると呪いが跳ね返るんだ。その音が呪詞に紛れ込んだらどうしてくれる」
「ごめんなさ……」
ぐー
また腹の音だ。
アルは大きくため息をついた。
「先に飯だ」
アルは台所へ向かい、とりあえずりんごを一つ持ってきた。そして、奴隷に渡す。奴隷はりんごを受け取り、口でかぶりつこうとしたが、力が無く、りんご一つかじれないようだった。
「クソ面倒くせえな」
「ごめんなさい」
「はぁ。じゃあ待ってろ」
アルはりんごを薄く切ってから奴隷に差し出した。
今度は口に入れることが出来たが、嚥下機能が低下しているのか、飲み込んだ途端に激しくむせ出し、吐き出してしまった。
「おい、何してんだよ」
「ごめんなさい」
「別にこんなもん、すぐに片付けれるけどよぉ」
アルは大きくため息をつきながら、吐き出したものを術で消してみせた。物くらいの移動なら、生贄も呪詞も必要ない。
それにしても、こんな面倒になるなら、ケチらずにもう少し丈夫でキレイな奴隷にすればよかった。
だからといって買いなおすのも面倒だか……ああ仕方ない。
アルは奴隷を抱えて家を出た。
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