ごめんなさいしか言えない奴隷

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※※※ アルはケチである。 奴隷が思った以上に金がかかってしまったので、このまま生贄だけに利用するのはもったいない、と思った。 だから、数日奴隷を利用してから生贄にしようと考えたのだ。 しかし奴隷は思った以上に使えなかった。 掃除を命じれば散らかすし、食事の用意を命じれば火事を起こしかける。水汲みを頼めば井戸に落ちかける。 「お前、何も出来ねえのな」 アルはため息をついて奴隷を睨みつけた。 「ごめんなさい」 奴隷は小さくなってアルに謝った。 その日の夜の事だった。アルが寝ようと部屋に向かうと、ベッドの上に奴隷が座っていた。 「何だ、奴隷のくせにベッドで寝たいのか」 アルは鼻で笑う。 奴隷は首をふると、おもむろに服を脱ぎだした。 アルはギョッとして奴隷の手を慌てて止めた。 「バカ、何してんだよ」 「ごめんなさい」 「いや、ごめんなさいじゃねえよ。……あーくそっ」 アルは服を直してやると、奴隷をベッドから下ろした。 「あのなあ、俺はお前をそんな目的で買ったんじゃねえから」 「ごめんなさい」 「わかってんのか?」 「ごめんなさい」 繰り返すごめんなさいに、アルは大きなため息をつく。 「ほら、自分の部屋で寝ろ。お前は何もしなくていいんだよ」 「……」 奴隷はモジモジとして、部屋を出ていく様子はない。 アルは、少し考えて思い至った。 ――ああ、もしかして今日何も出来なかったのが罪悪感があるのか? 奴隷はじっとアルの顔を見つめている。 面倒くせえ、とアルは口の中だけで呟くと、ベッドに潜り込み、奴隷を手招きした。 「入れ。今日は寒いから、お前を湯たんぽにしてやる」 「ゆたんぽ……?」 「お前で暖をとるって言ってんだよ。言っとくけど変な事するんじゃねえぞ!」 奴隷は、アルの言葉を聞いて、おずおずとベッドに入り込んだ。 奴隷は思った以上に暖かくて、アルは、適当に言ったものの悪くはないな、と満足に思った。 アルの腕の中に潜り込んだ奴隷は少し考え込んで、そして言った。 「ただいま」 「使い方違うっつーの」 アルは呆れて言いながら、そのまま奴隷を抱いて眠りについた。 その日から、アルは毎晩奴隷を湯たんぽ代わりにすることにした。奴隷は自分の役割を見つけたことで、ただ暖を取られているだけのくせに満足げな表情を浮かべていた。
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