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そんな日々を五日ほど続けたある日のことだった。
アルの家にやけに武装した一行がやってきた。
「呪術師アルだな」
高圧的な言い方をするその男を見て、アルはぎょっとした。その男は、アルの依頼者のターゲットだったのだ。依頼者の兄、つまり第一皇子である。
「弟から俺を殺すよう依頼を受けていたのだろう」
「さあな、守秘義務があるからなあ」
アルはとぼけるが、内心はかなり焦っていた。なぜばれたのだ。まさか依頼者自身が?
皇子は少し笑った。
「問題ない。弟は死んだ。俺を殺そうとした反逆の罪で昨日処刑された」
「ほう。物騒なことで」
アルは余裕の笑みを浮かべて見せる。これはまずい。自分も依頼を受けたのだとばれたら処刑されてしまう。
「俺には関係ない話だね」
「とぼけるな。弟が処刑の前に吐いた。貴様に依頼をしたのだとな」
「お前のくそみたいな弟のいうことを信じるのか?確かに俺のところに何やら皇族の男が依頼に来たが、俺は断ったぜ。俺が依頼を受けた証拠でもあるのか?手付金も受け取っていないぜ」
アルはそう言って見せる。
確かに、アルは何もまだ受け取っていない。相手が皇族で身分もはっきりしていたので支払いが滞ることもないだろう、支払いを渋れば脅せばいいだけだと思っていたので成功報酬で引き受けたのだ。
契約書も交わしてはいない。なんの証拠もない。問題ない。
アルはそう自分に言い聞かせた。
皇子は大きなため息をついてみせた。
「わかった。ただ、こちらもそれを鵜呑みにして帰るわけにはいかないのだ。だから」
皇子はちらりと自分の部下に目線で合図した。
部下は、部屋の隅で黙っておとなしくしていたアルの奴隷をひっとらえた。
「おい、俺のモンに何すんだ」
「この家のほかの人に少し話を聞こうと思ってね」
「こいつは最近買ったばかりだ。何も知らない」
「ああ、大丈夫だ。連れて行って、少し強めにお話を聞くだけだ」
皇子はそう言って笑って見せる。おそらく奴隷に拷問して吐かせるすもりなのだろう。
「おい、そいつはほとんど言葉を喋れねえぞ。ごめんなさい、と、あとは……」
「イエスやノーの意思表示さえできれば問題ない」
そう言うと、引き留めようとするアルを振り払って、一行はさっさと行ってしまった。
「ごめんなさい!」
奴隷は連れ去られる際にアルに向かって泣き叫ぶようにそう叫んだ。
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