夏葬

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「終わりにしようか」  そのひとことが来ることを理解していたはずなのに、いざ音として聞いた瞬間、目から涙が溢れ出てきた。  長い、けれど短い、片思いだった。  夏休みが始まる前、告白をした。相手はクラスメイト、しかも同性。高校最後の夏で、どちらにしても夏休みが明けてからはみな受験に集中するだろうからと、恥よりも後悔しないことを優先した結果だった。  拒否されると思っていた。気持ち悪いと忌避されると思っていた。  けれど結果は。  ――少し、考えさせて。  その言葉に、期待を寄せすぎてしまったのだ。拒絶されなかっただけ良かったのだと、そう思うべきだったのだ。  夏休みが始まって、彼から遊びの誘いをちょくちょく受けた。なんで誘うの? と尋ねたら、答えを出すには君のことを知らないからだ、と言った。それは、確かにそうかもしれない。あくまでもただのクラスメイトで、そこまで親しかったわけではないのだから。  だから、一緒に出掛けるのは、友人と一緒に遊ぶのと、同じ。特別な意味は何もない。デートでもなんでもない。一緒に流行りの映画を観て、カラオケに行って、水族館に行って、プールに行って……どれも全部、彼にとっては友人としていることの延長線上でしかなかったのだ。  そして八月中旬、お盆の時期で実家に帰っていた彼が戻ってきて、久し振りに――それでも一週間とかそこらぶりに、一緒に出掛けた。海辺の観光地を回って、ファミレスでご飯を食べて、うだうだしているうちに夕方になって、窓から差し込む夕日が、彼のきれいな横顔を照らして―― 「終わりにしようか」  そのひとことがやってきた。 「いろいろつき合わせたのに、ごめん」 「………………いや」  最初から期待などしていなかったのだ。その答えが返ってくることは自明だったはずなのだ。 「ここ、俺が持つよ」  そう言って、伝票を持ってレジに向かう背中を追いかける勇気はない。空っぽになった向かい席と、汗をかいたドリンクバーのグラスだけが相変わらず夕日に照らされていた。
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